BeRealはなぜ流行ったのか?
── 集団圧力と参加証明が生む”必死”の正体
通知が来ると、なぜか少し焦る

ある日、スマホが鳴る。
「Time to BeReal.」
たったそれだけなのに、なぜか少し焦る。
今なにしてる? 部屋、散らかってない? もうみんな撮った?
SNSなのに、どこか”儀式”のような空気がある。
一時の爆発的なブームは落ち着いたが、BeRealはZ世代を中心に強烈な印象を残したSNSの一つだ。この「焦り」は偶然ではない。
この記事では、BeRealがなぜ流行ったのかを「設計」の視点から読み解く。SNS疲れやリアル志向という表面的な説明を超えて、流行の本質にある心理構造と行動設計を解説する。
結論から言えば、BeRealの流行は偶然でも時代の気分でもなく、ユーザーの行動を巧妙に設計した結果だ。
この分析は、マーケティング設計の現場で得た知見をもとにしている。
「リアル志向」だけでは説明がつかない
SNS疲れへの反動、という定説

BeRealがなぜ流行ったかを尋ねると、たいていこう返ってくる。
- InstagramやTikTokの「映え」文化に疲れた
- ありのままの自分を共有したい
- Z世代はリアルを求めている
これらは正しい。だが、不十分だ。
リアル志向だけなら、もっと成功アプリがあるはず
「映えなくていいSNS」は、BeReal以外にも複数登場している。それでも、BeRealほどのユーザー熱量を生んだサービスはほとんどない。
「リアル志向」はポジションの話だ。ポジションだけで人が”必死”になるわけではない。
本質は「仲間外れになりたくない」
BeRealのユーザーが必死になる理由は、もっとシンプルだ。
投稿しないと、友達の投稿が見られない。
しかも、遅れて投稿するとその遅延時間が全員に表示される。
つまり──不参加が可視化される。
これが決定的に他のSNSと違う点だ。
承認欲求ではなく、排除回避

欲しいのは賞賛ではなく「証明」
Instagramは「いいね」が欲しい世界だ。バズりたい、承認されたい。
BeRealは違う。
欲しいのは賞賛ではない。「今この瞬間、私はこの集団の中にいる」という参加の証明だ。
心理的に言えば、これは承認欲求ではなく排除回避──集団から外れることへの恐れを動機にしている。
軽く見えるが、強い動機
「投稿しないと友達の投稿が見られない」という設計は、一見シンプルだ。しかしこの一文が生む心理的圧力は相当に強い。
賞賛を得たいという積極的動機よりも、排除されたくないという回避動機のほうが行動を引き出しやすいという傾向は、行動経済学でも広く指摘されている。
BeRealはこの心理を、巧妙にUX設計に組み込んでいると言えるだろう。
流行を生んだのは”設計”だった
三重の仕掛け
BeRealの核心は、次の三つの設計にある。
- 同時通知 ── 全員に同じ瞬間、通知が届く
- 遅刻の可視化 ── 遅れて投稿すると全員にわかる
- 投稿しないと見られない ── 不参加は即、情報から切り離される
この三つが組み合わさることで、「今すぐ投稿しなければ」という圧力が生まれる。
ポジションを「行動レベル」で固定した
多くのSNSは「リアルな自分を共有しよう」と呼びかける。BeRealは違う。
呼びかけるのではなく、「リアルでいる」ことを行動として担保する仕組みを入れた。
「真逆のポジションを取った」だけでは、ここまでのユーザー熱量は生まれない。ポジションを”行動レベルで固定した設計”があって初めて、流行は起きたと考えられる。
マーケターへの示唆
ポジションの「宣言」と「設計」は別物
マーケティングの現場では、こんな場面をよく目にする。
- ターゲットを定め
- ポジションを決め
- メッセージを打ち出す
ここで止まってしまうケースだ。
【現場でよくある失敗例】
ポジションを言語化した段階で「戦略ができた」と思い込み、ユーザーがそのポジションを体験する「場」や「仕組み」を設計しないまま施策を打ち始める。結果、メッセージは届いても、行動には変わらない。「言葉の戦略」と「行動の設計」は別物だ。
宣言はポジションの出発点に過ぎない。重要なのは、そのポジションがユーザーの行動として現れる仕組みを作れるかどうかだ。
心理を「構造化」できるか
【講師の視点】
BeRealの設計で注目すべきは、「若者はリアルを求めている」という心理を読んだだけでなく、その心理が行動として出やすい条件を整えた点です。マーケターにとって大切なのは「心理を知ること」ではなく、「その心理が動く状況を設計すること」。通知が鳴った瞬間に少し焦る──その小さな感情こそが、設計の勝利です。
BeRealの成功は「Z世代の気持ちがわかった」ことではない。気持ちを、構造として仕組んだことだ。
ポジションを決めることと、そのポジションが機能する状況を設計することは、まったく別のスキルと言えるだろう。
まとめ
BeRealがなぜ流行ったのか。その答えは、リアル志向という時代の気分ではなく、三つの行動設計にある。
- 排除回避の活用 ── 承認欲求ではなく、仲間外れへの恐れを動機に
- 不参加の可視化 ── 参加しないことのコストを全員に見える形にした
- 同時性の強制 ── ポジションを宣言ではなく行動として固定した
流行の裏には、いつも仕組みがある。
あなたのサービスやブランドには、ユーザーが「そこにいる」ことを体験させる設計があるだろうか。BeRealが問いかけているのは、そこだ。
よくある質問(FAQ)
Q. BeRealはもう流行っていないのか?
A. 爆発的なブームは2022〜2023年がピークで、その後ユーザー数は落ち着いた傾向にある。ただし2024年には公式アカウント機能や広告事業を開始しており、プラットフォームとしての展開は続いている。「過去のSNS」として切り捨てるのではなく、進化中のサービスとして捉えるのが正確だろう。
Q. BeRealはなぜ「投稿しないと見られない」仕組みにしたのか?
A. これはコミットメント設計と呼ばれるアプローチだ。全員が「参加者」であることを担保することで、閲覧専用ユーザー(いわゆるROM専)を排除し、コミュニティの密度と双方向性を保つ意図があると考えられる。全ユーザーの約80%が毎日投稿するという高いエンゲージメントも、この設計の産物だ。
Q. BeRealが他の「リアル志向SNS」と違う点は何か?
A. 多くの類似サービスが「飾らない投稿を推奨する」というメッセージにとどまった。BeRealは「通知・遅刻表示・投稿しないと見られない」という三重の仕掛けで、リアルであることを行動として担保した。ポジションの”宣言”ではなく”設計”に踏み込んだ点が本質的な差と言えるだろう。
Q. Z世代に特に刺さった理由は何か?
A. Z世代はデジタルネイティブとして多数のSNSを並行利用しており、「SNS疲れ」を肌で感じている世代でもある。一方で、友人グループとのつながりへの感度も高い。BeRealが刺激した「排除回避」の心理は、閉じたコミュニティの中で承認より所属を求めるZ世代の感覚と合致したと考えられる。
Q. マーケターはBeRealの設計から何を学べるか?
A. 「ポジションを決めること」と「そのポジションが機能する仕組みを作ること」は別物だ、という点が最大の示唆だ。BeRealは「リアル」というポジションを宣言しただけでなく、ユーザーがリアルでい”続けざるを得ない”状況を設計した。自社サービスでも同様に、価値提案を体験として成立させる設計があるかを問い直す価値がある。
Q. BeRealは広告やビジネス利用はできるのか?
A. 2024年から広告事業を開始しており、「マックステイクオーバー」などの広告メニューが利用可能とされている。ただしBeRealのコアバリューは「リアルさ」にあるため、過度な演出や広告過多はブランドの毀損につながるリスクがある。活用する場合は、プラットフォームの世界観と整合したコミュニケーション設計が求められるだろう。
