はじめに
マネージャーがメンバーに対して、最も安易に、そして最も無責任に使いがちな言葉がある。
「君、コミュニケーション能力が低いよね」
言われた側は困る。
なぜならその言葉は、原因も、改善方法も、次の一手も含んでいないからだ。
「もっとちゃんと話せ」
「空気を読め」
「伝え方を工夫しろ」
── では、何をどう直せばいいのか?
多くのケースで、マネージャー自身が
「コミュニケーション能力とは何か」を分解・構造化できていない。
その結果、メンバーは「直せと言われても直せない」状態に置かれる。
本来、マネジメントとは
課題を特定し、改善可能な形にまで分解して伝える行為のはずだ。
この記事では、
・コミュニケーション能力を構造的に分解し
・どこに課題があるかを特定し
・どう改善すればよいかを示し
・1on1でどう使うかまで落とす
ところまでを一気に整理する。
コミュニケーション能力は「3つの能力の集合体」である
コミュニケーション能力は、才能でも性格でもない。
プロセスであり、構造である。
以下の3つのSTEPに分解できる。

STEP1. センシング能力|環境を認識する力(インプット)

・場の空気
・相手の表情、声色、反応
・会議の目的、前提、制約
いわゆる「空気を読む力」だが、本質は
データを正しくインプットできているかである。
STEP2. 解釈する能力|アルゴリズム

STEP1で入ってきた情報をもとに、
・この場で何が期待されているのか
・次に取るべき行動は何か
・どの発言が適切か
を推論する力。
ここには、その人がこれまで生きてきた中で形成された
独自の思考アルゴリズムが強く影響する。
STEP3. アウトプット能力|伝える力

・言葉の選び方
・話す順番
・構成、トーン
STEP2で「出すべき答え」が分かっていても、
アウトプットが拙ければ、コミュニケーションは失敗する。
「コミュニケーションが下手」は、どのSTEPの問題か?
重要なのは、
どのSTEPに課題があるかで、指摘も改善もまったく変わるという点だ。
これは排他的ではなく、
複数のSTEPに課題があるケースも当然起こりうる。
STEP別|ありがちなNG例と改善方法
STEP1|センシング能力のNGと改善
NG例
・会議のゴールを把握していない
・相手の反応が変わっているのに話し続ける
・「今は聞くフェーズ」という合図を見落とす
このタイプは、悪気がない。
しかし、そもそも情報が入ってきていない。
よくある誤った指摘
「もっと考えて話して」
「空気読んで」
→ 考える以前に、材料がない。
改善ポイント
・会議前に「今日のゴールは何か」を必ず言語化させる
・発言前に
「今は意見を出すフェーズか?」
「決めに行っているか?」
を自問させる
・場の温度感を直感で数値化させる
センスを求めない。チェック項目を与える。
STEP2|解釈アルゴリズムのNGと改善
NG例
・正しいことを、間違った文脈で言う
・「正しい=言うべき」と思い込む
・裏テーマや力学を無視した正論パンチ
このタイプは、頭が悪いわけではない。
むしろ優秀な人材であることが多い。
問題は、
解釈アルゴリズムが独特すぎること。
改善ポイント
・発言前に
「この場での最優先事項は何か?」
「誰のための会議か?」
を言語化させる
・「正しさ」と「適切さ」を分けて考えさせる
・過去の会議を振り返り
「暗黙のゴールは何だったか」を一緒に整理する
アルゴリズムを書き換えるのではなく、
選択肢を増やすことが目的。
STEP3|アウトプット能力のNGと改善
NG例
・結論が最後まで出てこない
・話が長く、論点が散らかる
・正しいが伝わらない
改善ポイント
・結論 → 理由 → 補足 の順で話す
・1分 → 30秒 → 一文で説明する練習
・「相手が一言で言い返すとしたら何か?」を想定する
アウトプットは、
才能ではなくフォーマットである。
「優秀だが扱いづらい人材」への処方箋
このタイプは、多くの場合
STEP1は高く、STEP3も一定レベルにある。問題はSTEP2。
・正論を言う
・仕事もできる
・だが場を壊す
ここで「協調性がない」と切ると、
組織は思考停止する。
処方箋
・まず「意見は正しい」と認める
・その上で
「この組織では、正しさ以外に何が必要か?」
を一緒に言語化する
・「今勝つ」ではなく「半年後に通す」視点を持たせる
矯正ではなく、視野を拡張する。
マネージャー自身がSTEP2でズレているケース
最も厄介で、最も多い。
・「普通はこうだろ?」が口癖
・成功体験を絶対視する
・理由を言語化せずに評価する
これは、
マネージャー自身の解釈アルゴリズムがズレている状態だ。
自己チェック
・なぜダメなのか説明できるか?
・それは事実か、解釈か?
・別の解釈でも成立しないか?
答えられないなら、
マネージャーがボトルネックである。
1on1での使い方テンプレート
STEP1|現象の確認
・最近、どんな場面でズレを感じたか
・本人の認識はどうか
STEP2|STEP特定
・センシングの問題か?
・解釈の問題か?
・アウトプットの問題か?
※決めつけず、仮説として置く
STEP3|具体フィードバック
・どの情報を拾えていなかったか
・どう解釈していたか
・別の選択肢は何があったか
STEP4|改善アクション
・次回の会議で何を意識するか
・チェック項目を1〜2個に絞る
STEP5|次回レビュー
・できたか/できなかったか
・なぜそうなったか
評価ではなく、学習の場にする。
おわりに
コミュニケーション能力は、
分解できる。
構造化できる。
そして、教えられる。
それができないまま
「コミュニケーション能力が低い」と言うのは、
メンバーの問題ではなく、マネージャーの怠慢だ。
マネジメントとは、
「わからない」を
「改善できる形」に変換する仕事である。
関連記事


