「新規事業開発を任されたが、何から手をつければいいかわからない…」
「事業開発の具体的な進め方やステップを知りたい」
「アイデアはあるものの、どうやって事業として形にすれば良いのだろう?」
本記事は、そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに向けて書いています。
この記事を読めば、新規事業開発の全体像と、失敗リスクを最小限に抑えながら成功確率を飛躍的に高めるための具体的な進め方が明確に理解できます。そして、明日から最初の一歩を踏み出すための具体的なアクションプランが手に入ります。
結論から言うと、事業開発成功の鍵は、いきなり素晴らしい解決策(ソリューション)を考えることではありません。それよりも、
顧客が抱える「課題の質」を徹底的に見極めることにあります。
そして、その思考プロセスを加速させる強力なツールが「リーンキャンバス」です。
本記事では、数々の事業開発を支援してきたプロの研修講師の解説に基づき、事業開発の5つのステップと、その中核をなす「課題の見極め」「リーンキャンバスの活用法」について、具体例を交えながら網羅的に解説します。
なぜ、事業開発は「ソリューション」ではなく「課題」から始めるべきなのか?
新しいサービスの企画を依頼されたら、まず何をしますか? 多くの人が「どんなものを作るか(ソリューション)」から考えがちですが、実はそれが失敗への近道かもしれません。
「解の質」より「課題の質」がビジネスの価値を決める
ビジネスで大きな価値を生むのは、「解けても5点しかもらえない課題」を完璧に解くことではなく、「解けたら100点もらえる課題」に取り組むことです。
下の図のように、どんなに素晴らしい解(ソリューション)を用意しても、取り組む課題の質が低ければ、ビジネス全体の価値は低いままです。逆に、筋の良い課題、つまり顧客にとって重要で切実な課題を見つけることができれば、事業の成功確率は劇的に高まります。

【講師の視点】
ビジネスで言うと、「課題にフィットしたら100億稼げます」というものをやっているのか、いきなりソリューションを作って「5億にしかならない課題」を解いているのか、という違いが起こりうります。基本的には、筋の良い課題に取り組まないと、筋の良いビジネスにはならないのです。
結論として、より良いビジネスやアイデアはソリューションではなく課題にまずフォーカスしましょう。顧客にとって“重要な課題”でなければ、どんなに解が良くても価値は低いのです。まず“課題を見極めてから、解を磨く”という順番が鉄則です。
この原則を見誤ると、大きな失敗に繋がります。過去には、鳴り物入りで登場したGoogle Glassやバルミューダフォンなど、高い技術や優れたデザインを持ちながらも、顧客の真の課題を捉えきれずに市場に受け入れられなかった事例も存在します。事業者都合のプロダクトアウト型思考ではなく、常に顧客の目線を持ち、顧客が抱える真の「課題」からスタートすること。これが新規事業開発における絶対のルールです。
「質の良い課題」を見極める4つの評価軸
では、「質の良い課題」とは何でしょうか?
事業開発を進めるにあたっては、以下の4つの評価軸で判断することを推奨しています。
- 課題の大きさ:顧客が「すごく課題感がある」と感じているか?
- 逼迫度:「すぐにでも解決したい」と思っているか?
- 投資意欲:「お金をかけてでも解決したい」と考えているか?
- ユニークさ:「誰も気づいていない」未開拓の課題か?
これら4つの条件を満たす、
「課題感が大きく、逼迫しており、支払意思もあり、誰も気づいていない課題」 こそ、事業開発で狙うべき“お宝”なのです。

【現場でよくある失敗例】
「耳にした・目にした課題に安易に飛びついてしまう」ケースは研修でもよく話題に上がります。例えば、顧客が雑談レベルで「こうだったら良いのにね」と言ったことを真に受けてしまい、開発を進めた結果、実はその顧客は対価を払うほど強い課題だとは感じていなかった、という失敗です。
必ず以下のチェックリストで自問自答し、課題の質を深掘りするステップが不可欠です。
- それはユーザー本人が本当に困っている課題か?
- 顧客が対価を払うほど強い課題か?
- 顧客が抱える多くの悩みの中で、それが一番重要な課題か?
- みんながまだ気づいていない課題か?
【5ステップで解説】失敗しない新規事業開発の進め方|全体像
「課題」の重要性を理解した上で、事業開発の全体像を見ていきましょう。新規事業開発は、闇雲に進めるのではなく、以下の5つのステップで仮説の精度を着実に高めていくのが成功への王道です。

- アイデア検証 (Idea Verification)
- 目的:どんな課題解決をアイデアとして定め、どう磨き込むかを検討する最初のフェーズです。「誰の、どのような課題を解決するのか」というビジネスアイデアの仮説を立てます。
- 手法:後述する「リーンキャンバス」を使い、ビジネスの骨子となる仮説を素早く可視化します。この段階では完璧な計画は不要で、検証すべき仮説を明確にすることがゴールです。
- Customer–Problem Fit (CPF:課題の質を上げる)
- 目的:ステップ1で立てた仮説が、本当に顧客の課題とフィットしているかを確認し、課題の質を高めるフェーズです。
- 手法:想定顧客へのインタビューなどを通じて、机上の空論だった仮説を現実の顧客の声にぶつけ、ギャップを埋めていきます。多くの場合、ここで当初の仮説が間違っていたり、より根深い課題が見つかったりします。その発見こそが事業の価値を高めます。
- Problem–Solution Fit (PSF:解決策の検証)
- 目的:顧客が抱える「質の高い課題」を特定できたら、いよいよ「その課題を解決するのに、この解決策(ソリューション)で良いのか」を検証します。
- 手法:MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる、課題を解決できる最小限の機能を持つ試作品を顧客に提示し、フィードバックを得ます。いきなり完璧な製品を作らず、低コストで高速に「この解決策は価値があるか」を検証するのが鍵です。
- Product–Market Fit (PMF:人が欲しがるものを作る)
- 目的:特定の顧客に受け入れられた解決策が、ニッチなニーズに留まらず、市場全体に受け入れられるか(フィットするか)を検証するフェーズです。PMF(プロダクトマーケットフィット)は、事業が継続的に成長できるか否かを左右する重要な概念です。
- 手法:本格的な製品開発とテストマーケティングを行います。PMFが達成されると、口コミが自然発生したり、広告宣伝費をかけなくてもオーガニックで顧客が伸び始めたりと、プロダクトが自走し始めます。
- Scale (スケールさせるための変革)
- 目的:PMFが確認できたら、事業を本格的に拡大(スケール)させるフェーズに入ります。ステップ4までが「0→1(価値を創る)」だとすれば、このステップは「1→10、10→100(創った価値を届ける)」の段階です。
- 手法:マーケティングや営業体制を強化し、組織を拡大していきます。プロダクトの安定運用や顧客サポート体制の構築も重要になります。
この5ステップで最も重要なのが、最初の「アイデア検証」と「Customer-Problem Fit」です。ここでビジネスの根幹となる「課題」と「顧客」の解像度をいかに高められるかが、後のステップの成否を分けます。
【ステップ1の核】リーンキャンバスでアイデアを高速で可視化する
アイデア検証フェーズで絶大な効果を発揮するのが「リーンキャンバス」というフレームワークです。
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバスは、ビジネスモデルの仮説を1枚のシートに整理するためのツールです。特に不確実性の高い新規事業の初期段階において、以下の3つの利点があります。
- ビジネスモデルをビジュアル化できる
- 複雑な事業計画を1枚の絵にまとめることで、全体像を直感的に把握できます。
- 誰でも短時間で書ける
- 専門知識は不要で、決められた9つの項目を埋めるだけで、ビジネスの仮説を手軽に書き出せます。
- チームの共通言語となり、目線合わせがしやすい
- メンバー間で事業に対する認識のズレを防ぎ、同じ方向を向いて議論を進めるための「共通言語」として機能します。

リーンキャンバスの書き方(“順番”が重要)
リーンキャンバスは、ただ闇雲に埋めるのではなく、書く順番が非常に重要です。以下の順番で思考を整理していくことで、顧客起点のビジネスモデルを効率的に構築できます。
- ① 課題 (Problem)
- 内容:想定する顧客が抱えているであろう課題を、仮説で良いのでまず3つ程度書き出します。これは検証を通じてどんどん書き換えていく前提です。
- ポイント:既存の代替ソリューション(顧客が現在、その課題をどう解決しようとしているか)も併記すると、課題の切実さがより明確になります。
- ② 顧客セグメント (Customer Segments)
- 内容:その課題を抱えているのは具体的に誰かを定義します。「20代男性」のような曖昧な括りではなく、具体的な人物像(ペルソナ)が思い浮かぶレベルまで解像度を上げます。
- ポイント:特に、新しいものを積極的に試す「アーリーアダプター」を狙えているかが重要です。彼らは情報感度が高く、課題解決に意欲的で、後の顧客層への影響力が大きいため、初期の顧客として理想的です。

- ③ 独自の価値提案 (Unique Value Proposition)
- 内容:「誰の、どんな課題に、どんな価値を提供するのか」という事業の核となるコンセプトを、簡潔で分かりやすく、魅力的な言葉で表現します。「なぜ競合ではなく、あなたを選ぶのか」という問いへの答えです。
- ポイント:「〇〇(顧客)が△△(課題)を解決するための、□□(独自性)なサービス」のように、顧客と課題を主語にすると考えやすくなります。
【講師の視点】
この①〜③が事業の“芯”です。①課題と②顧客セグメントが少し変わるだけで、④以降のソリューションやチャネルは全部変わってしまいます。だからこそ、初期段階では他の項目は曖昧でも良いので、“課題と顧客ターゲットの深掘り”に最も時間を使うべきです。
- ④ ソリューション (Solution)
- 内容:課題を解決するための具体的なアイデアを簡潔に書きます。
- ポイント:初期段階では詳細にこだわる必要はありません。まだ課題の仮説検証が不十分なため、「こんな機能」「こんなサービス」といったアイデアレベルで記載すれば十分です。
- ⑤ チャネル (Channels)
- 内容:顧客に価値を届けるための経路(Webサイト、店舗、SNS広告など)を考えます。
- ポイント:ターゲット顧客が普段どこから情報を得ているか、どのようなメディアに接しているかを想像しながら書き出します。
- ⑥ 収益の流れ (Revenue Streams)
- 内容:マネタイズの方法(月額課金、都度払い、広告収入など)を想定します。
- ポイント:どのくらいの単価で、どのくらいの顧客ボリュームになりそうか、粗い当たりをつけます。
- ⑦ コスト構造 (Cost Structure)
- 内容:事業運営にかかる主なコスト(人件費、開発費、マーケティング費用など)を洗い出します。
- ポイント:固定費と変動費を意識すると、損益分岐点のイメージが湧きやすくなります。
- ⑧ 主要指標 (Key Metrics)
- 内容:事業の成功を測るための重要な指標(KPI)を考えます。
- ポイント:最初から完璧な指標は設定できません。まずは、顧客の定着を示す利用開始(Activation)と継続利用(Retention)に注目するのが定石です。(これらはAARRRモデルの一部です)
- ⑨ 圧倒的な優位性 (Unfair Advantage)
- 内容:競合が簡単に真似できない独自の強みです。専門技術、強力なコミュニティ、著名な専門家の支持、大量のデータなどが該当します。
- ポイント:アイデア検証段階では書けなくても問題ありません。事業を進める中で見つかることも多いので、空欄でも気にせず進めましょう。
【ケーススタディ】QBハウスのリーンキャンバスを分析する
「10分1,200円」のヘアカット専門店「QBハウス」を例に、リーンキャンバスを見てみましょう。
- ① 課題
- 理美容室の待ち時間・施術時間が長い
- シャンプーなど不要なサービスがある
- 価格が高く、サービスが画一的
- ② 顧客セグメント
- 時間を重視するビジネスパーソンや学生
- シンプルにカットのみを求める男女
- 価格と利便性を重視する都市生活者
- ③ 独自の価値提案
- 「10分で、安価・高品質なカットのみ」
- 駅ナカ・駅近という圧倒的利便性
QBハウスは、「時間をかけたくない」「余計なサービスはいらない」という顧客の明確な課題に対し、「10分カット」という独自の価値提案をぶつけることで大成功を収めました。このように、成功している事業は必ず強力な「課題×顧客×価値提案」のセットを持っているのです。
【実践で役立つ工夫】
リーンキャンバスは、関係者が多い事業ほど真価を発揮します。しかし、ツーサイドプラットフォーム(例:求人企業と求職者が両方顧客となる求人サイト)のような事業の場合、1枚のキャンバスで両者を書こうとすると混乱しがちです。 その際は、「求人企業用」「求職者用」と、セグメントごとにキャンバスを分けて作成するのがコツです。これにより、各サイドの課題や提供価値が明確になり、ビジネスモデル全体の解像度が格段に上がります。
まとめ:最初の一歩は「課題」の言語化から
本記事では、新規事業開発の進め方について、その大原則から具体的な5つのステップ、そして思考を整理する強力なフレームワーク「リーンキャンバス」までを網羅的に解説しました。
改めて、重要なポイントを振り返ります。
- 成功する事業は「解の質」より「課題の質」を重視している。
- 事業開発は「アイデア検証」→「CPF」→「PSF」→「PMF」→「スケール」の5ステップで進める。
- 最初のステップでは「リーンキャンバス」を使い、特に「①課題」「②顧客」「③価値提案」の仮説を立てることに集中する。
新規事業開発という未知への挑戦は、不安がつきものです。しかし、正しい進め方とフレームワークがあれば、その成功確率を大きく高めることができます。
この記事を読み終えたあなたの次なる一歩は、壮大な事業計画書を書くことではありません。まずはチームメンバーとリーンキャンバスを囲み、「私たちの顧客は誰で、その最大の課題は何か?」を言語化してみることです。完璧な答えは必要ありません。まずはたたき台となる仮説を作り、それを顧客にぶつける検証の旅に出ることこそが、成功への最短ルートとなるでしょう。
新規事業開発でよくある質問(FAQ)
最後に、新規事業開発の担当者が抱きがちな質問とその回答をまとめました。
- 事業開発と営業、マーケティングとの違いは何ですか?
-
営業は「既存の商品を売る」、マーケティングは「商品が売れる仕組みを作る」活動です。一方、事業開発は「0から1を生み出す」、つまり新しい事業や収益の柱そのものを創り出す活動を指します。顧客の課題発見から、商品企画、収益モデルの設計、市場投入まで、より上流から広範囲を担うのが特徴です。
- 良い事業アイデアが全く思いつきません。どうすればいいですか?
-
机の前で悩むより、まず顧客の「不」を探すことから始めましょう。「不便」「不満」「不安」など、人々が日常で感じている課題にこそ、ビジネスの種は眠っています。本記事で解説した通り、優れたアイデアはソリューションではなく「質の良い課題」から生まれます。まずは身の回りの人の困りごとに耳を傾けてみてください。
- リーンキャンバスは一人で作成しても良いのでしょうか?
-
もちろん一人で作成するのも有効ですが、チームで作成することを強く推奨します。多様な視点が加わることで、一人では気づけなかった課題や顧客セグメント、価値提案のアイデアが生まれるからです。リーンキャンバスは「チームの共通言語」 となって議論を活性化させ、仮説の質を高めてくれます。
- リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違いは何ですか?
-
どちらもビジネスモデルを可視化するツールですが、想定する利用フェーズが異なります。ビジネスモデルキャンバスは既存事業の分析や整理に適しているのに対し、リーンキャンバスは不確実性の高い新規事業の初期段階で、仮説を高速で検証することに特化しています。「課題」や「ソリューション」の項目があるのが特徴で、まさにゼロからイチを生み出すプロセスに最適化されたフレームワークです。
- 顧客インタビューでは、どんなことを聞けば良いですか?
-
「こういう商品があったら欲しいですか?」といったプロダクト主体の質問は避けましょう。代わりに、「〇〇の作業で、最も時間がかかっていることは何ですか?」「最近、〇〇で困った経験はありますか?」のように、顧客の過去の行動や課題認識を深掘りする質問が有効です。顧客を先生と捉え、ひたすら「学ぶ」姿勢で、顧客自身も気づいていない「潜在的な課題」を引き出すことが目的です。
- 事業が失敗する最も多い原因は何ですか?
-
最も多い原因は「事業アイデアや自分たちの仮説に惚れ込みすぎること」です。作り手が自分たちの考えが正しいと信じ込み、顧客の声に耳を傾けずに突き進んでしまうことから多くの失敗が生まれます。「これは誰の、どんな課題を解決するのか?」と問い続け、顧客からのフィードバックに基づいて柔軟に方向転換する勇気が、失敗を避ける上で最も重要です。
- リーンキャンバスの「圧倒的な優位性」が埋められません。
-
心配ありません。事業開発の初期段階、特にアイデア検証フェーズでは、この項目は空欄のままでも全く問題ないとされています。まずは顧客の課題解決に集中し、事業を進める中で自社の強みが明確になってから埋めていけば十分です。最初から完璧を目指さないことが、リーンキャンバス活用のコツです。
関連記事

📩 まずは気軽にご相談ください
事業開発を「現場で動かせる力」に変えるために
研修や育成はあくまで手段。最終的に成果を生むのは、実際に動く現場の力です。
FIXITでは、単なる講義やノウハウ提供にとどまらず、実務に根ざした問いかけと並走で、現場が“やり切れる”状態をつくることを重視しています。
事業開発・人材育成に関して
「どこから始めたらいいかわからない」
「一度やってみたがうまくいかなかった」
そんなお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。