【後編】BtoBマーケティング「THE MODEL」完全ガイド|インサイドセールス・営業・CSの実践プロセス

【後編】BtoBマーケティング「THE MODEL」完全ガイド|インサイドセールス・営業・CSの実践プロセス

前編では、THE MODELの全体構造と、ビジネスの入り口となる「リード(見込客)」の獲得・管理について解説しました。

しかし、リードを集めただけでは売上は立ちません。

重要なのは、集めたリードをいかにして「商談」に変え、「受注」し、そして「継続利用」してもらうかという、後半のプロセスです。

【後編】となる本記事では、以下の3つの実務プロセスと、現場で必ず直面する「運用」の壁を突破するノウハウを徹底解説します。

  1. インサイドセールス: 質の高い商談を創出し、循環させる扇の要
  2. フィールドセールス: 科学的なパイプライン管理で受注を予測する
  3. カスタマーサクセス: 受注後の顧客を成功に導き、LTVを最大化する

目次

1. インサイドセールス:商談を創出し、循環させる「扇の要」

インサイドセールス

マーケティングが集めたリード(MQL)を、そのまま営業に渡してはいけません。
確度の低いリードまで営業が対応すると、移動や準備に時間を取られ、組織全体が疲弊してしまうからです。

ここでフィルター役となり、商談の質を高めるのが「インサイドセールス(IS)」です。

インサイドセールスの定義と役割

インサイドセールスとは、電話、メール、Web会議ツールなどを活用し、顧客と非対面でコミュニケーションを行う営業手法のことです。

その役割は単なる「アポ取り」ではありません。顧客の課題をヒアリングし、情報提供を通じて購買意欲を高め(ナーチャリング)、受注確度の高い案件だけをフィールドセールスに供給することが最大のミッションです。

「テレアポ」と「インサイドセールス」の決定的な違い

よく混同されますが、両者は目的と時間軸が全く異なります。

項目従来のテレアポインサイドセールス
ゴールアポイントの「数」商談の「質」と「受注貢献」
時間軸短期的(今すぐアポが取れるか)中長期的(将来の案件化も含む)
手法質より量の架電(リスト順)行動データを基にした戦略的架電
失注時「ダメな客」として捨てる「リサイクル」して育成に戻す

インサイドセールスは、今すぐアポにならなくても「半年後に検討しましょう」と関係を維持し、
将来の売上を作る「農耕型」の活動を含んでいる点が最大の特徴です。

アプローチ手法による2つの分類:BDRとSDR

インサイドセールスは、アプローチする対象によって動き方が異なります。

インサイドセールスの種類(BDRとSDR)

① BDR(Outbound:新規開拓型)

  • 対象: こちらがターゲットと定めた企業への能動的アプローチ(PUSH型)。
  • 特徴: 相手は自社を知らないケースも多いため、「戦略」が命です。大手企業の決裁者などに手紙や代表電話からアプローチします。
  • 役割: 相手企業の課題を仮説立てし、興味を惹きつける提案を行って接点を作る。

② SDR(Inbound:反響型)

  • 対象: 資料請求や問い合わせをしてきた顧客(PULL型)。
  • 特徴: 顧客の関心が高いうちに接触する必要があるため、「スピード」が命です(5分以内の架電が理想)。
  • 役割: 顧客の要望を素早く汲み取り、適切な解決策を提示して商談化する。
BDRとSDRの比較表

KPI設定のポイント:量から質へのシフト

インサイドセールスを立ち上げる際、いきなり「商談の質(受注確度)」を求めすぎると動きが止まってしまいます。そのため、KPI設定については「最初は量を重視し、次に量と質のバランスを取り、最後に質を重視する」という段階的な移行を推奨します。

商談化の基準「BANT」と合意形成

インサイドセールスがフィールドセールスにパス(トスアップ)する際、必ず確認すべき項目が「BANT(バント)」です。

  • Budget(予算):予算はあるか?
  • Authority(決裁権):誰が決めるのか?
  • Needs(必要性):企業の課題は何か?
  • Timeframe(導入時期):いつ頃導入したいか?

これらが全て揃っていれば「Aランク案件」、Needsだけなら「Cランク案件」といったようにランク付けし、両部門で「どのランクなら商談として受け取るか」を合意しておくことが、部門間対立を防ぐ鍵となります。


2. フィールドセールスの科学:「根性論」から「パイプライン管理」へ

フィールドセールス

インサイドセールスからバトンを受け取ったフィールドセールス(営業)の仕事は、提案を行い受注を勝ち取ることです。

THE MODELにおける営業管理の特徴は、個人の感覚(気合や根性)に頼るのではなく、「フェーズ(進捗)」と「パイプライン(在庫)」で数値を科学的に管理する点にあります。

商談の現在地を知る「フェーズ管理」

「あの案件、どうなってる?」と聞いた時、「いい感じです!多分いけます!」と答える営業組織は危険です。THE MODELでは、商談の進捗を明確な定義に基づいてフェーズ(段階)分けします。

【一般的な商談フェーズ定義の例】

フェーズ定義確度目安完了条件
(次に進むトリガー)
Phase1:課題認識顧客が自社の課題を認識している10%課題の合意形成
Phase2:解決策提案課題への解決策を提示した30%デモ実施、提案書の提出
Phase3:評価・選定具体的な検討・競合比較中60%見積書提示、決裁ルート確認
Phase4:最終交渉契約条件の調整中80%法務確認、最終合意
Phase5:決裁待ち稟議申請中90%稟議書提出
Close受注 または 失注契約締結 または 失注処理

最重要フェーズは「P2:課題認識」
講師は「フェーズ2が最重要」と指摘します。ここで顧客のビジネス課題(Business Issue)、問題点(Problem)、解決策(Solution)、効果(Benefit)の4つを整理し、合意形成できているかどうかが、その後の受注率を決定づけます。

未来の売上を予測する「パイプライン管理」

パイプラインとは、営業プロセス上にある「見込案件の在庫」のことです。マネージャーは、各フェーズに積み上がっている案件金額の合計(パイプライン総額)を見て、数ヶ月後の売上を着地予測(フォーキャスト)します。

マネジメントに必要な「3つの眼」

パイプラインを見る際、マネージャーは以下の3点を必ずチェックしてください。

  1. 時間軸(いつ入金か?):
    「1000万円の商談があります」という報告に対し、リードタイムを考慮し、「それは今月の数字なのか、来月の数字なのか」を確認します。時間軸のズレは目標未達の主因です。
  2. 確率(母数は足りているか?):
    「逆算思考」が重要です。受注率が25%なら、1件受注するには「4件」の商談が必要です。「目標達成にはあといくらのパイプラインが必要か」を常に計算し、不足していればマーケティングやISにフィードバックします。
  3. クリーンさ(ゾンビはいないか?):
    「完了予定日が過去のまま」「半年以上フェーズが動いていない」案件はありませんか? これらは「ゾンビ案件」です。見かけの数字を膨らませるだけで、実際には売上になりません。
パイプラインの情報はクリーンか比較する基準例

運用ノウハウ:「リサイクル」の自動化ルール

ゾンビ案件を放置しないために、SFA(営業支援システム)で以下のルールを設定し、自動的にリサイクル(失注処理してマーケティングに戻す)する仕組みを作ることが推奨されます。

  • 「90日間、フェーズ(進捗)が変わっていない案件」は自動失注
  • 「60日間、ネクストアクションの入力がない案件」は自動失注

営業担当者は「いつか売れるかも」と抱え込みがちですが、強制的にリサイクルすることで、マーケティングによる再育成(ナーチャリング)のループに乗せることができます。

例外ルールの運用
ただし、「個人的な関係値で繋がっていて、明確なタイミング待ちである」といった正当な理由がある場合に限り、例外として保持を認めることもあります。基本は自動化しつつ、こうした運用での「遊び」を持たせることが現場での納得感を高めるコツです。


3. カスタマーサクセス(CS):受動的サポートから能動的サクセスへ

カスタマサクセス

受注はゴールではありません。特にSaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、受注は「顧客との関係のスタート」に過ぎません。ここで登場するのが「カスタマーサクセス」です。

カスタマーサポート(CS)との決定的な違い

カスタマサクセスとカスタマサポートの違い

よく混同されますが、「カスタマーサポート」と「カスタマーサクセス」は全く別の役割です。

項目カスタマーサポート(Support)カスタマーサクセス(Success)
姿勢受動的(Reactive)能動的(Proactive)
起点顧客からの問い合わせ・クレーム顧客データの分析・予兆
目的マイナスをゼロにする(問題解決)ゼロをプラスにする(成功体験)
位置づけコストセンター(経費)プロフィットセンター(利益創出)

カスタマーサクセスは、「解約しそうな顧客」や「もっと活用できそうな顧客」をデータから見つけ出し、先回りしてアプローチします。これにより、解約阻止(チャーン防止)やアップセル(追加購入)を生み出し、売上に直接貢献するのです。

実務フロー①:オンボーディング(導入支援)

オンボーディングとは?

オンボーディングとは、新規顧客が製品を使いこなせるようになるまで導くプロセスのことです。
契約直後の1〜3ヶ月間をオンボーディング期間と呼び、「解約の7割は、導入初期のつまづきが原因」と言われるほど重要な期間です。

  • ゴール: 初期設定の完了と、First Success(最初の成功体験)の創出。
  • ポイント: 属人化させず、「キックオフ資料」「設定マニュアル」「動画ガイド」などで「型化(標準化)」し、誰が担当しても顧客が迷わない状態を作ります。

オンボーディングの型化例

オンボーディングの型化例

実務フロー②:タッチモデルによる対応の最適化

タッチモデルとは

タッチモデルとは、顧客生涯価値の各階層に対応して顧客への対応(タッチ)方法を最適化していく考え方。すべての顧客に手厚い専任担当をつけることは、リソース的に不可能です。そこで、顧客の期待収益(LTV)に応じて対応を変える「タッチモデル」を活用します。

  1. ハイタッチ(High Touch):
    • 対象: 大口顧客(LTV高)。
    • 対応: 専任担当がつき、定例会や個別コンサルティングを行う。
  2. ロータッチ(Low Touch):
    • 対象: 中規模顧客(LTV中)。
    • 対応: 専任はつけず、セミナー(1対多)やメールで定期フォローする。
  3. テックタッチ(Tech Touch):
    • 対象: 小規模顧客(LTV低・数が多い)。
    • 対応: 人は介在せず、動画、FAQ、ステップメールなどのテクノロジーで自動支援する。

運用の極意:テックタッチからの「アップセル」
テックタッチ層はずっとそのままではありません。利用状況を監視し、「ID数が増えそう」「非常によく使ってくれている」という兆候が見えたら、インサイドセールスやCSから能動的にアプローチし、上位プラン(ハイタッチ層)へ引き上げる。この柔軟な変更(アップセル)こそが、LTV最大化の鍵となります。


4. 【警告】KPIを持った“善人”が組織を壊す理由

THE MODELを導入したにもかかわらず、組織が機能不全に陥るケースがあります。その最大の原因は、各部門が自分のKPI(部分最適)を追求しすぎることで、会社全体の利益(全体最適)を損なう「合成の誤謬」です。

全員が自分の目標達成のために真面目に働いているのに、組織が壊れていく。この恐ろしい現象のメカニズムを知っておいてください。

① マーケティングの暴走:「リード数」至上主義

マーケティング部門が「リード獲得数」だけをKPIにすると、どうなるでしょうか?
手っ取り早く数を稼ぐために、ターゲット外の学生や、懸賞目当てのユーザーまで集め始めます。結果、「大量のゴミリード」が営業に流され、営業リソースが無駄遣いされ、本当に追うべき顧客への対応が遅れます。

② インサイドセールスの暴走:「アポ数」至上主義

インサイドセールスが「アポイント数」だけをKPIにすると、どうなるでしょうか?
「とりあえず会うだけでいいから」と、確度の低いアポイントを量産し始めます。結果、フィールドセールスは「挨拶回りと空振り」に忙殺され、提案の質が落ち、受注率が激減します。

③ カスタマーサクセスの軽視:「後工程」扱い

多くの組織で、CSは「売った後の尻拭い」と見なされがちです。しかし、無理な営業で受注した顧客はすぐに解約し、CSの工数を圧迫します。CSが疲弊すれば、既存顧客の満足度は下がり、悪評が広まり、新規獲得も難しくなるという負のループに入ります。

解決策:共通ゴールの設定
これを防ぐ唯一の方法は、各部門のKPIに「後工程の指標」を組み込むことです。

  • マーケティングは「商談化数」も見る。
  • インサイドセールスは「受注貢献額」も見る。
  • 全員で「売上」と「LTV」を見る。

5. 成功を支えるITインフラ:ツールは「設計思想の可視化」

最後に、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)といったツールの位置づけについて触れます。

よくある間違いは、「ツールを導入すればTHE MODELができる」と思い込むことです。しかし、ツールは「答え」ではありません。あくまで「設計思想を可視化するための道具」に過ぎません。

「組織設計」が先、「ツール」は後

これまで解説してきた「リードの定義」「商談フェーズの基準」「リサイクルのルール」などの業務設計(思想)が先になければ、ツールは何の役にも立ちません。

設計のないまま導入された高機能なSFAは、現場にとって「入力項目が多くて面倒なだけの箱」になり果てます。

  1. 思想(Philosophy): なぜ分業するのか?顧客にどう価値を届けるのか?
  2. 設計(Design): リード定義、フェーズ基準、KPI連鎖のルール作り。
  3. 実装(Tool): 設計したルールをMA/SFAに設定し、運用に乗せる。

この順番を間違えないことが、THE MODEL運用の鉄則です。


6. 全体のまとめ

前編・後編を通じて、THE MODELの全プロセスと運用の要諦を解説しました。

  1. THE MODELの本質は、分業ではなく「責任のバトンパス設計」にある。
  2. リードの定義(MQL/SQL)は固定せず、状況に合わせて柔軟に変える。
  3. KPIの部分最適に陥らず、全体最適(売上・LTV)を全員で追う。
  4. ツールは、設計されたプロセスを回すための手段に過ぎない。

THE MODELは、導入して終わりではありません。市場環境や組織の成長に合わせて、定義やルールを常にチューニングし続ける「終わりのない改善プロセス」こそが、THE MODELそのものなのです。


運用担当者が抱える「あるある」FAQ

Q1. 部門間の仲が悪く、連携が進みません。何から始めるべきですか?

A. まずは「言葉の定義」のすり合わせから始めてください。「ホットリードとは何か」という定義がズレていることが対立の最大要因です。最初から完璧な連携を目指すのではなく、まずはマーケティングとインサイドセールスの間だけで「MQL→TQL」のパス条件を決めるなど、小さな合意形成からスタートすることをおすすめします。

Q2. 人手が足りず、インサイドセールス専任者を置けません。

A. 専任が理想ですが、兼務でも可能です。その場合、重要なのは「時間」で役割を区切ることです(例:午前中はインサイドセールス、午後はフィールドセールス)。マーケティング担当が兼務するケースもありますが、いずれにせよ「片手間」にならないよう、役割を明確に意識する時間を設けてください。

Q3. KPIが多すぎて管理しきれません。

A. 最初から全てのKPIを追う必要はありません。まずは自社の営業プロセスの「ボトルネック」になっている箇所のKPIだけに絞ってください。例えば、アポは取れているが受注につながらないなら「商談化率」や「受注率」を、そもそもリードが足りないなら「リード獲得数」を重点的に管理します。運用が定着してから、徐々に管理項目を増やしていくのが定石です。

(【前編】へ戻る:組織の生産性を最大化する「定石」とリード戦略)

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