「新規事業開発を任され、素晴らしいアイデアを思いついたものの、本当にこのサービスが顧客に響くのか?」
「どうすれば売れる価値として伝えられるのか?」と悩んでいませんか?
多くのビジネスパーソンが、技術や機能にばかり目を向け、顧客が本当に求める「価値」を見失いがちです。しかし、事業成功の鍵は、まさにこの「顧客提供価値」をどれだけ深く理解し、明確に言語化できるかにかかっています。バリュープロポジションとは何かを理解し、その作り方を習得することは、新規事業を成功に導くための必須スキルと言えるでしょう。
本記事は、新規に事業開発を任されたビジネスパーソンの方に向けて、事業開発の全体像の中で「ソリューション検証」がどこに位置し、その中で「顧客提供価値」をどのように検討していくべきかを徹底的に解説します。バリュープロポジションとは何か、その作り方から、機能的価値とは、情緒的価値とは、体験価値とは何かといった多角的な視点、さらには事例を交えながら、実践的なステップと注意点を網羅的にご紹介します。
これまでの連載では、新規事業開発の5ステップから始まり、顧客課題の「質」を高めるCPF(Customer Problem Fit)フェーズとして「セグメンテーション」「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」「プロブレムインタビュー」について解説し、CPF完了後には「市場規模を概算」し、さらにプロセスを進めるべきかチェックする必要性について説明しました。では、実際に検討を進める事になった場合、次なる一手は何か。その答えがここにあります。
この記事を読み終える頃には、あなたは事業開発の進め方の全体像の中で、ソリューション検証の位置付けが理解でき、顧客提供価値の検討手順や注意すべき点が明確になり、明日から自信を持って顧客提供価値の言語化・明確化に着手できる状態になっていることをお約束します。
さあ、顧客の心に深く刺さる「売れる価値」を創造する旅路へ、今こそ出発しましょう。
新規事業開発の全体像と「顧客提供価値」の位置付け
新規事業開発は、闇雲に進めるのではなく、段階的に仮説の精度を高めていくことが成功への王道です。これまでの連載で解説してきた5つのステップを振り返りましょう。

- アイデア検証 (Idea Verification):ビジネスアイデアの骨子となる仮説を立て、リーンキャンバスなどを活用し、「誰の、どのような課題を解決するのか」というビジネスアイデアの骨子となる仮説を立てます。
- Customer–Problem Fit (CPF:課題の質を上げる):立てた仮説が、本当に顧客の課題とフィットしているかを確認し、課題の質を高めるフェーズです。顧客インタビューなどを通じて、顧客課題の解像度を徹底的に高めます。
- Problem–Solution Fit (PSF:解決策の検証):質の高い課題を特定できたら、いよいよ「その課題を解決するのに、この解決策(ソリューション)で良いのか」を検証するフェーズです。
- Product–Market Fit (PMF:人が欲しがるものを作る):特定の顧客に受け入れられた解決策が、ニッチなニーズに留まらず、市場全体に受け入れられるか(フィットするか)を検証するフェーズです。
- Scale (スケール):PMFが確認できたら、事業を本格的に拡大(スケール)させるフェーズに入ります。
これまでの連載では、主に「アイデア検証」と「CPF」に焦点を当て、顧客が実際にどのような「痛み」を感じる課題を抱えているのかを見てきました 。CPFフェーズが完了し、顧客課題の解像度が高まった今、次に重要となるのがPSF(Problem-Solution Fit)のフェーズです。
PSF(Problem-Solution Fit)とは、「見えてきた課題を解決するために、どんなソリューション(解決策)を用意して価値提案すれば良いかを検討していく段階」を指します。このフェーズの目標は、「課題」と「ソリューション」がぴったりと合致している状態を実現することです。このPSFは、PMF(Product Market Fit)を達成する上で極めて重要な前段階と位置付けられています。
【講師の視点】成功スタートアップに学ぶPSFの極意
成功したスタートアップの多くは、PSFの段階で「プロダクトの最適化」ではなく「プロダクトの検証」に徹底的に注力していました。このフェーズの目的は、機能を追加していくことではありません。むしろ、顧客との対話を繰り返し、ソリューションの仮説がそもそも顧客にフィットしているのかを丹念に磨き込んでいくことが重要です。この段階で顧客の真のニーズと異なるプロダクトを作り上げてしまうと、後のフェーズでの軌道修正は困難になり、大きな失敗につながります。顧客が本当に求めている顧客提供価値を見極め、それを具現化するソリューションの仮説を検証する。これがPSFフェーズにおける成功の極意と言えるでしょう。
つまり、PSFフェーズにおける顧客提供価値の検討は、単なる機能開発の前に「その解決策が本当に顧客にとって価値があるのか」を見極める、事業成功の根幹をなす非常に重要なプロセスなのです。
なぜ「顧客提供価値」の検討が新規事業成功に不可欠なのか?
新規事業開発において、素晴らしい技術や画期的な機能を持つ製品を生み出すことはもちろん重要です。しかし、それだけでは事業成功にはつながりません。なぜなら、顧客が本当に求めているのは、製品そのものではなく、その製品がもたらす「価値」だからです。
「得られる価値」が「支払う対価」を上回るから顧客は購入する

顧客が何かを購入する決定は、シンプルに「得られる価値」が「支払う対価」よりも大きいと判断したときに起こります。ここでいう「対価」は、製品やサービスの金額だけを指すのではありません。購入前や購入中の手間、使い方を覚える時間、心理的なハードル、そして時には社会的リスクなど、「価値を得るための金額、手間、時間のすべて」が含まれます。
顧客に選ばれるためには、この「得られる価値」を最大化し、「支払う対価」を最小化する必要があります。価値が高ければ価格が高くても支払われますし、価値が低ければいくら安くても買われませ ん。つまり、「対価」はあくまで「価値」との相対的なものなのです。
PSFの段階で顧客提供価値を深く検討し、顧客にとって本当に意味のある「価値」を明確にすることは、事業が「人が欲しがるもの」となるための、最も重要な土台を築くことにつながるのです。
顧客にとっての価値とは何か?

価値とは、顧客の抱える問題や課題が解決されることで生まれる「ポジティブな変化」のことを指します。つまり、単にモノやサービスを提供するだけではなく、それによって顧客の状況がより良い方向へシフトすることが、本当の意味での「価値」だと言えます。
たとえば、「急な雨に降られ、傘を持っていない」という困った状況にある顧客に対して、コンビニで手軽に傘を購入できる選択肢があることで、「雨に濡れずにすむ」というより良い状況へと導くことができます。このギャップを埋める支援こそが価値提供であり、私たちが提供すべき視点です。
価値とは、「顧客にとって何が嬉しいのか?」に対する具体的な答えであるべきなのです。
「顧客提供価値」の検討ステップ:ソリューション検証の具体的な進め方
CPFフェーズで顧客課題の質を高めた後、いよいよPSFフェーズへと進み、その課題を解決するためのソリューションと価値提案を検討していきます。ソリューション検証は、以下の具体的なステップで進められます。

- 課題を設定する(※CPFで検証済み): これまでのCPFフェーズで深く掘り下げ、検証してきた顧客の課題を明確にします。質の高い課題が設定できていなければ、ソリューションも的を外してしまうため、この土台が最も重要です。研修では、課題の大きさ、逼迫度、投資意欲、ユニークさの4つの評価軸で課題の質を見極めることを推奨しています。
- 価値提案を考える: 設定した課題に対して、どのような「ポジティブな変化」を顧客に提供できるのか、その顧客提供価値を具体的に考えます。本記事の核となる部分であり、後ほど詳しく解説します。
- ソリューションを考える: 検討した価値提案を実現するために、どのような製品やサービス(ソリューション)が必要なのかを具体化します。この段階では、まだ詳細な機能にこだわる必要はありません。最小限のアイデアレベルで十分です。
- 顧客インタビュー(ソリューションインタビュー)を実施: 検討した価値提案とソリューション案を顧客に提示し、反応やフィードバックを得るためのインタビューを行います。ソリューションが顧客の課題にフィットしているかを検証する重要なステップです。この際、一方的に説明するのではなく、顧客の反応を深く掘り下げる「弟子になるつもり」の姿勢が求められます。
- エレベーターピッチの作成: 自社の価値提案とソリューションを、短時間で効果的に伝えられるよう、簡潔な説明(エレベーターピッチ)を作成します。これは、ソリューションインタビューやその後の検証で活用され、バリュープロポジションを凝縮した形とも言えます。
- プロトタイプの作成: ソリューションの仮説を具現化するため、最小限の機能を持つ試作品(MVP: Minimum Viable Product)を作成します。完璧な製品ではなく、価値提案を検証できる最低限のもので十分です。このMVPを顧客に提供することで、机上の空論ではない具体的なフィードバックを得ることができます。
- 顧客インタビュー(プロダクトインタビュー)を実施: 作成したプロトタイプを実際に顧客に使ってもらい、使用感や課題解決度合い、新たなペインがないかなどをヒアリングします。これにより、プロダクトが顧客の課題を適切に解決できているかを深く検証します。このインタビューでは、未来の「もしも」ではなく、現在の具体的な行動や感情に焦点を当てることが重要ですし、解決策ではなく課題に焦点を当てるプロブレムインタビューの姿勢に通じます。
- PSF(課題に対する適切なソリューション)の完了: 上記の一連の検証プロセスを通じて、「顧客の課題に対して適切なソリューションが提供できている」という確信が得られれば、PSFの完了となります。この段階で、課題とソリューションが整合している状態(Problem Solution Fit)が確立されます。
この中でも、特にステップ2の「価値提案を考える」は、事業の方向性を決定づける根幹となる部分です。次の章では、この顧客提供価値を多角的に捉えるための「機能的価値」「情緒的価値」「体験価値」について深く掘り下げていきます。
「機能的価値」「情緒的価値」「体験価値」の理解が顧客を動かす
顧客提供価値は、決して単一のものではありません。顧客は、製品やサービスから様々な種類の価値を受け取っています。これらを理解し、バランスよく設計することが、競合との差別化を図り、顧客に選ばれ続けるための鍵となります。主な顧客提供価値は、「機能的価値」「情緒的価値」、そして時間軸で捉える「体験価値」に分類できます。

機能的価値とは? – 実用性と課題解決の側面
機能的価値とは、製品やサービスが持つ「機能」や「性能」から得られる、実用的で合理的な価値のことです。具体的には、便利である、簡単である、速い、どこでも使える、安心できる、長く使える、といった商品特徴や機能から得られる実用性を指します。顧客の物理的な課題や、タスクを効率的にこなしたいというニーズに応える側面と言えるでしょう。
例えば、「傘」を例に考えてみましょう。


- ダイソーの傘(300円):安価に、雨に濡れない手段を得られるという機能的価値を提供します。これは、手頃な値段で雨を凌ぐ方法を得たいという実用的なニーズを満たします。
- コンビニ傘(550-1,500円):すぐに、出先で、雨に濡れない手段を得られるという機能的価値を提供します。急な雨に対応できる利便性、つまり「今すぐ」という時間的な制約を解決する価値が重視されます。
これらの傘は、どちらも「雨に濡れない」という基本的な機能を提供しますが、価格や入手しやすさという点で異なる機能的価値を生み出しているのです。
情緒的価値とは? – 感情と自己表現の側面
情緒的価値とは、製品やサービスを通じて顧客が経験する「感情面でのポジティブな影響」を指します。これは、機能だけでは説明できない、個人の感情や心理に深く訴えかける側面です。製品やサービスが顧客の自尊心、喜び、安心感、満足感、あるいはステータス向上といった感情的なニーズをどのように満たすかを考えます。
情緒的価値には、以下のようなものが含まれます。
- 購入に伴うもの:自分へのご褒美、選ぶ喜び、新しいものを手に入れるワクワク感など。
- 所有に伴うもの:優越感、特別扱い、思い出、記念、安心感など。
- 使用に伴うもの:自己表現、自己実現、リラックス、モチベーション向上など。
同じく「傘」の例で考えてみましょう。

シャネルの傘(15,000-30,000円):
単に雨を避けるだけでなく、「デザインがおしゃれ」「自分へのご褒美」「所有の満足感」「社会的なステータスをアピールできる」といった情緒的価値を提供します。高価な傘を持つことで得られる自己肯定感や他者からの評価は、機能だけでは測れない顧客提供価値と言えます。
このように、機能的価値と情緒的価値は、顧客の購買動機にそれぞれ異なる形で影響を与えます。顧客はしばしば、機能だけではなく、それに付随する感情的な満足を強く求めているのです。
体験価値とは? – 時間軸で捉える一連の顧客経験
体験価値とは、製品やサービスの「使用前」「使用中」「使用後」という時間軸の中で、顧客が体験する一連の価値の総称です。価値の知覚は、広告や口コミを見る時、営業を受ける時、実際に製品を使う時、そして使用体験を振り返る時など、様々なタイミングで生じます。顧客が製品やサービスと接する「旅」全体を通して、どのようなポジティブな変化や感情を抱くかをデザインする視点です。
体験価値デザインの成功事例「Shupatto(シュパット)」
エコバッグの「Shupatto(シュパット)」は、その体験価値デザインの成功例として知られています。多くのエコバッグが抱える「使用後の折り畳みが面倒」という課題に対し、両端を引っ張るだけで一気にたためる独自の構造でこの「不満」を解消しました。
これにより、「レジ袋代を払いたくない(機能的側面)」「自分好みの鞄でおしゃれな気分を味わいたい(感情的側面)」「環境意識が高い人と思われたい(社会的側面)」といった多様な顧客提供価値に加え、「使った後もストレスなく簡単にたためる」という優れた体験価値を強く訴求し、シリーズ累計700万個を突破する大ヒットにつながっています。
この事例は、製品の機能だけでなく、顧客が製品を使い始める前から使い終えるまでの一連の体験全体をデザインすることの重要性を示しています。
BtoBビジネスにおける体験価値の多面性
BtoB(企業向け)サービスの場合、体験価値はさらに複雑になります。製品やサービスを「直接利用するエンドユーザー」だけでなく、「お金を出す購買意思決定者」、「導入を推進する口添え人・門番(インフルエンサー)」など、複数の登場人物が存在し、それぞれ異なる立場で価値を評価します。
このように、BtoBでは関係者全員の体験価値を設計することが極めて重要となります。最低でも「決裁者」と「エンドユーザー」の両方の視点を持って設計する必要があるでしょう。
価値の源泉を探る:人間の「欲求」と「状況」を深掘りする
これまで見てきた3つの価値(機能的・情緒的・体験)は、いわば価値の「表現形」です。では、その根源には何があるのでしょうか?それは、人間の根源的な「欲求」と、その欲求が発動される「状況」です。この2つを深く理解することが、真に顧客に響く価値を生み出す鍵となります。
人間の根源的欲求:アルダーファのERG理論とジョブ理論
顧客がなぜその製品を「欲しい」と感じるのか。その根底には、普遍的な人間の欲求が存在します。古くから知られるマズローの欲求5段階説も有名ですが、新規事業開発の文脈では、より柔軟で現実的なアルダーファのERG理論が役立ちます。
アルダーファのERG理論:3つの基本欲求
アルダーファは、人間の欲求を以下の3つに分類しました。
- 存在欲求 (Existence):生命を維持し、物質的な安全を確保したいという欲求。食事、睡眠、住居、経済的安定などが含まれます。
- 関係欲求 (Relatedness):他者と良好な関係を築き、社会的なつながりを持ちたいという欲求。家族、友人、同僚との関係性、所属感などが含まれます。
- 成長欲求 (Growth):自己の能力を高め、創造的な活動を通じて成長したいという欲求。自己実現、承認、挑戦などが含まれます。
マズローの理論が低次の欲求が満たされてから高次の欲求へ移行する「階層的」なモデルであるのに対し、ERG理論は3つの欲求が同時に存在し、相互に影響し合うと考えます。また、高次の欲求が満たされない場合、より低次の欲求でそれを補おうとする「欲求の後退」という現象も指摘しています。

【講師の視点】ゴッホはなぜ絵を描き続けたのか?
画家のゴッホは、生前たった1枚しか絵が売れず、経済的には全く満たされていませんでした(存在欲求の不満足)。しかし、彼は絵を描くことをやめませんでした。それは、絵を描くことで自己を表現し、成長したいという強烈な「成長欲求」があったからです。このように、ERG理論は「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という言葉が示すような、ある欲求が満たされない時に別の欲求で補おうとする人間の複雑な心理をうまく説明できます。ビジネスで顧客の多様な動機を理解する上で、非常に実践的なフレームワークと言えるでしょう。
ジョブ理論(Jobs to be Done):顧客が本当に「片付けたい用事」は何か?
顧客は単に製品やサービスを購入しているのではありません。彼らは、自らの生活の中で発生する特定の「ジョブ(Jobs to be Done=片付けたい用事)」を解決するために、製品やサービスを「雇用」しているのです。これが、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」の核心です。
また、マーケティングの有名な格言として「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ|
セオドア・レビット(Theodore Levitt) 」というものがあります。顧客の目的はドリルという「モノ」を手に入れることではなく、「穴を開ける」というジョ-ブを片付けることです。この視点に立つと、競合は他のドリルメーカーだけでなく、千枚通しや、あるいは「穴の空いた板」を販売する業者も含まれることになります。
【事例】ミルクシェイクは誰の、どんな「ジョブ」を解決している?
あるファストフードチェーンがミルクシェイクの売上向上に苦戦していました。顧客に「もっと甘くすべきか?」「フレーバーを増やすべきか?」と聞いても、売上は改善しませんでした。
そこで、ジョブ理論の視点で顧客を観察したところ、朝の時間帯に一人で車でミルクシェイクを買う人が多いことが分かりました。彼らの「ジョブ」は、「長くて退屈な通勤時間中に、片手で簡単に摂取でき、空腹を満たし、かつ時間をつぶせるもの」だったのです。このジョブにとって、ミルクシェイクは競合であるバナナやドーナツよりも優れていました。手が汚れず、飲むのに時間がかかり、満足感も高いからです。
このインサイトに基づき、店はミルクシェイクをもっと濃くして飲むのに時間がかかるようにし、小さなフルーツのかけらを入れてサプライズ感を加えるなどの改良を行いました。さらに、朝のドライブスルーで素早く買えるようにした結果、売上は劇的に向上しました。
この事例が示すように、顧客の年齢や性別といった「属性」でセグメントするのではなく、彼らがどのような「ジョブ」を片付けようとしているのかを理解することが、真に価値あるソリューションの開発につながるのです。
人によって重視する欲求は異なる —— だからこそ「分ける」ことが大切

ERG理論で示されるように、人の欲求には「生存」「関係性」「成長」といった層があり、それぞれの充足度合いや状況によって、どの欲求を重視するかは人によって異なります。たとえば、ビジネススーツを選ぶ場面では、「手頃にきちんと見えれば良い」という人もいれば、「おしゃれだと思われたい」という欲求が強い人もいます。
これはどちらが良い悪いではなく、単純に「求める価値が異なる」ということです。
だからこそ、私たちは「分けて考える」=セグメンテーションとターゲティングが必要になるのです。分けること自体が目的ではなく、人によって価値の感じ方が違うからこそ分ける。
それぞれの欲求をきちんと理解した上で、求められる価値を的確に提供していくことが重要になります。
「状況」が変われば「価値」も変わる

顧客の欲求やジョブを理解する上で、もう一つ欠かせないのが「状況(コンテキスト)」という視点です。同じ人間であっても、置かれた状況によって求める価値は大きく変わります。
気心の知れた友人同士で飲みに行く場合は、「見かけよりも安くてウマい」を重視することもあれば、気になる相手とのデートでは、「素敵だと思われる」お店を選ぶという人もいます。
だからこそ、私たちは顧客を「30代、男性、会社員」といった静的な属性だけで捉えるのではなく、「平日の朝、出勤途中の電車に乗る前」といった動的な「状況」で捉える必要があります。ペルソナや共感マップを作成する際も、この「状況」を具体的に描き出すことが、顧客理解の解像度を飛躍的に高めるのです。
【講師の視点】一杯の水の価値
例えば、ここに一杯の水があるとします。オフィスで仕事をしている時に飲む水と、砂漠で遭難しかけている時に飲む水とでは、その「価値」は全く異なります。モノは同じでも、顧客が置かれている「状況」がその価値を決定づけるのです。
パン屋の例え話も分かりやすいでしょう。駅前のパン屋で朝買うパンは、通勤・通学途中の「時間がない状況」で「手軽に空腹を満たしたい」というジョブを解決します。一方、休日に郊外の高級ベーカリーで買うパンは、「優雅で落ち着いた特別な時間を楽しみたい」というジョ-ブを解決するかもしれません。同じ「パン」という製品でも、状況とジョブが異なれば、求められる価値(価格、味、パッケージ、店の雰囲気など)も全く変わってくるのです。
顧客提供価値を言語化する最強フレームワーク「バリュープロポジションキャンバス」
これまで議論してきた「顧客提供価値」を整理し、具体的なソリューションへと落とし込むために非常に有効なフレームワークが「バリュープロポジションキャンバス」です。これは、コンサルティング会社「Strategyzer」のアレックス・オスターワルダー氏が提唱したもので、「顧客が何を求めているのか」と「自社がどのような価値を提供できるのか」の2つの側面から事業アイデアを可視化し、両者の一致点(フィット)を見つけ出すための思考ツールです。
【講師の視点】なぜこのキャンバスが有効なのか?
このフレームワークの優れた点は、徹底的に「顧客視点」から思考をスタートさせる点にあります。多くの事業開発者は、どうしても「自分たちが何を作れるか(プロダクトアウト)」という発想に陥りがちです。しかし、このキャンバスは、まず顧客の「ジョブ」「課題」「利得」を深く洞察することを強制します。顧客理解という強固な土台の上に、自社の価値提案を構築することで、独りよがりではない、本当に市場に求められる製品・サービスを生み出すことができるのです。
バリュープロポジションキャンバスの作り方:2つの視点と9つのステップ
バリュープロポジションキャンバスの作成は、大きく分けて「①顧客を深く理解する」フェーズと「②提供価値を設計し、言語化する」フェーズで進めます。必ず①の顧客理解から着手することが成功の鍵です。

本来のバリュープロポジションキャンバスでは左側にValue Map、右側にCustomer Profileを記載していきますが、顧客を深く理解したうえで、提供価値を設計し言語化していく、というプロセスに従うため、本記事内では左右を逆転させ、左側にCustomer Profile、右側にValue Mapを配置しております
フェーズ1:顧客を深く理解する(顧客プロフィール:左側の円)
まずは顧客の視点に立ち、彼らの日常や仕事における「現実」を解き明かしていきます。
ターゲットとなる顧客層を定め、その中でも代表的な人物像(ペルソナ)を設定します。
- 概要:顧客が「得られたら嬉しい」と感じるポジティブな結果や便益のことです。期待する利得、予期せぬ利得、必須の利得、切望する利得など、様々なレベルがあります。
- 考えるヒント:「何があれば顧客はもっと楽になるか、嬉しくなるか?」「顧客が成功をどのように測っているか?」「顧客の夢や願望は何か?」
- 概要:顧客が直面する障害、困難、リスク、ネガティブな感情などを指します。コスト、時間、手間、フラストレーションなどが含まれます。
- 考えるヒント:「何が顧客の時間を無駄にさせているか?」「顧客をイライラさせるものは何か?」「顧客が直面している最大のリスクは何か?」
- 概要:顧客が日常生活や仕事において「片付けたい」と思っている用事や達成したい目的、解決したい課題などを指します。これは、単なるタスクだけでなく、社会的な欲求(例:良い親でありたい)や感情的な欲求(例:安心したい)も含まれます。書き出したゲインやペインから顧客が本当に達成したいジョブを明確化することが重要です。
- 考えるヒント:「顧客は何を達成しようとしているのか?」「どのような問題を解決しようとしているのか?」「どんなニーズを満たそうとしているのか?」
【価値を深く捉えるためのヒント】
ここで「顧客の仕事」を考える際に、本記事の前半で解説した「3つの価値」の視点を取り入れることが非常に重要です。
- 体験価値の視点: 顧客の仕事を単一のタスクとしてではなく、そのプロセスの「前」「中」「後」を含めた一連の体験として想像してみてください。例えば、「食事を作る」という仕事の前には「献立を考える」「買い物に行く」があり、後には「後片付け」があります。この一連の流れの中に、顧客の隠れた課題や喜びの種が眠っています。
- 情緒的・機能的価値の視点: その仕事は、単なる「機能的」な側面(例:お腹を満たす)だけでなく、どのような「感情的」側面(例:家族に喜んでほしい、料理で自己表現したい)や「社会的」側面(例:友人とのパーティーで評価されたい)を持っているでしょうか。これらの多面的な視点を持つことで、顧客のプロファイルをより深く、立体的に捉えることができます。
洗い出した項目の中から、顧客にとって最も重要なものは何か、優先順位をつけます。特に深刻なペインや、強く望まれているゲインは何かを見極めることが、価値提案の焦点を定める上で重要です。
【現場でよくある失敗例】
顧客セグメントを考える際、多くのチームが陥りがちなのが、自分たちの思い込みで顧客の「あるべき姿」を描いてしまうことです。ここでの目的は、理想の顧客像を作ることではありません。CPFフェーズで実施した顧客インタビューで得られた、生々しい一次情報(発言録や観察メモ)に基づいて、顧客の現実をありのままに記述することが極めて重要です。
フェーズ2:価値を創造し、言語化する(バリューマップ:右側の四角)
顧客の解像度が高まったら、いよいよ自社が提供できる価値を具体化していきます。
- 概要:どのようにして顧客の「利得(Gains)」を生み出すのかを具体的に説明します。顧客が切望しているゲインを実現する方法を考えます。
- 考えるヒント:「どのように顧客の期待を超える価値を提供できるか?」「どのように顧客の生活を楽にできるか?」「どのようにポジティブな感情を生み出せるか?」
- 概要:どのようにして顧客の「課題(Pains)」を取り除き、和らげるのかを具体的に検討します。ステップ5で優先順位をつけた、特に深刻なペインに焦点を当てます。
- 考えるヒント:「どのように顧客のコストや時間を削減できるか?」「どのようにネガティブな感情を解消できるか?」「どのようにリスクを減らせるか?」
概要:ペインリリーバーとゲインクリエイターを実現するための具体的な製品・サービスのリストを作成します。実現性や顧客へのインパクトを考慮し、提供する機能やサービスに優先順位をつけます。
最後に、キャンバスの左右がしっかりと結びついているか(フィットしているか)を検証し、提供価値を伝わる言葉にまとめます。
- フィットの検証:ペインリリーバーは顧客の課題に、ゲインクリエイターは顧客の利得に、それぞれ直接対応していますか?製品・サービスは顧客の仕事を助けていますか?この問いに全て「Yes」と答えられる状態が、Problem-Solution Fit(PSF)が達成されている状態に近いと言えます。
- 提供価値の言語化:フィットが確認できたら、その価値を一文で明確に伝えるためのフレームワークを活用します。
提供価値の言語化フレームワーク
Value Proposition Canvasで整理した内容をもとに、自社の提供価値をストーリーとして明確に伝えるためのテンプレートです。

【言語化フレームワーク】
私たちの提供する価値は 「(提供価値の中核を一言で)」。
「(Gain Creator:顧客が嬉しいこと)」 を実現したり、
「(Pain Reliever:顧客が嫌なこと)」 を解消したりすることで、
「(Customer Jobs:顧客が本当に達成したいこと)」 を成し遂げたい、
「(Persona:どんな顧客)」 を助けます。
このフレームワークに沿って各要素を埋めることで、顧客の状況と自社の提供価値が結びついた、説得力のあるメッセージが完成します。
【実践編】QBハウスの事例で学ぶ!バリュープロポジションキャンバス作成プロセス
理論を学んだところで、実際にどのようにキャンバスを作成していくのか、具体的な事例を見ていきましょう。ここでは、多くの人が利用したことのある「QBハウス」を例に、コスパと時短を重視する顧客層(ペルソナ)向けのバリュープロポジションキャンバスを作成するプロセスを追体験します。
ステップ1:顧客理解から始める(キャンバス左側)
まずは徹底的に顧客になりきり、キャンバスの右側「顧客セグメント」を埋めていきます。
手順1|ペルソナの概要を記載する
最初に、ターゲットとなる顧客像を明確にします。
【ペルソナ:コスパ時短層】
- 忙しいビジネスパーソン。時短×コスパ最優先。
- こだわりは強くないが清潔感の維持は必須。
- 予約・雑談・長時間施術は避けたい。

手順2&3|「Gains」「Pains」を記載する
次に、ペルソナの「嬉しいこと(Gains)」「嫌なこと(Pains)」を具体的に書き出します。
※実際の現場では仮説ではなくインタビュー等で得られた具体的な内容を書き出していきます
【Gains(嬉しいこと)】
- Before(体験前):即判断→スキマ時間を活用/明朗会計で不安ゼロ。
- During(体験中):10分完了・説明最小・標準化された仕上がり/静かな接客・順番の可視化。
- After(体験後):手入れ簡単・持ちがよい/どこでも同じ安心感/節約実感・小さな達成感/清潔感シグナルの継続。
【Pains(嫌なこと)】
- Before(体験前):混雑・所要・価格の不確実性/予約の負担/店舗選び迷い。
- During(体験中):待ち・施術が長い/過剰接客や雑談での疲労/品質ブレ・認知負荷(指示が多い)/衛生面の不安。
- After(体験後):再現性が低い/スタイル維持に手がかかる/次回タイミング管理が面倒/時間・費用の超過感。
手順4|PainとGainから、顧客が実現したいこと(Customer Jobs)を記載する
GainsとPainsを踏まえ、このペルソナが散髪という行為を通じて「本当に達成したい進歩」は何かを定義します。単なる「髪を切る」というタスクではなく、その前後の状況や感情まで含めて捉えるのがポイントです。
【Customer Jobs(顧客の仕事=達成したい進歩)】
コア・ジョブ(ひと言)
限られた時間・費用・認知負荷で、散髪をスキマ時間に無理なく組み込み、清潔感という社会的シグナルを継続したい。
Before(行く前)
- 機能的側面:いま入れる/何分で終わる/いくらかを即判断し、予約・準備ゼロで動きたい。
- 情緒的側面:先延ばし不安を断ち、段取りよく動けている感を得たい。
- 社会的側面:商談/会食/家族の目線にだらしなく見られない備えをしたい。
During(店内)
- 機能的側面:10分内で計画通りに終え、説明最小でも標準品質に乗せたい。
- 情緒的側面:気疲れせず、進行が読めるコントロール感/安心感を保ちたい。
- 社会的側面:距離感・プライバシーが守られ、急いでいても丁寧に扱われたい。
After(店を出た後)
- 機能的側面:手入れが楽で持ちがよく、次回目安が読みやすい。どの店舗でも同水準にしたい。
- 情緒的側面:節約・時短の達成感と自己効力感を積み上げたい。
- 社会的側面:いつ会っても清潔感のシグナルを安定発信し、突発予定にも即応したい。
ステップ2:提供価値の設計(キャンバス右側)
顧客の解像度が高まったら、そのニーズにどう応えるかを考え、キャンバスの左側「価値提案」を埋めていきます。
手順5, 6, 7|顧客ニーズに応える価値を設計し、提供価値としてまとめる
顧客のPainsを和らげる「Pain Relievers」、Gainsを増幅させる「Gain Creators」を考え、それらを実現するための具体的な「Products & Services」を定義します。
【Pain Relievers(嫌なことを減らす要因)】
- 混雑可視化&予約不要 → 不確実性/予約負担をゼロ化
- 10分設計&標準手順 → 時間超過・品質ブレのリスク低減
- シンプル工程 → 過剰接客・気疲れの回避/認知負荷の軽減
- 前払い・明朗会計 → 追加料金不安の解消
【Gain Creators(嬉しいことを増やす要因)】
- スキマ時間にルーティン化しやすい体験設計
- 清潔感シグナルを安定発信できる仕上がりの再現
- 節約(時間・費用)の実感と自己効力感の積み上げ
【Products & Services(製品・サービス)】
- 10分カット特化のオペレーション
- 混雑度サイン(店頭の信号表示など)・順番管理
- 前払いの明朗会計(券売機等)
- シンプル工程(カット特化/シャンプー・雑談を省略)
- 全国チェーンの標準化(どの店舗でも同水準)
- アクセス性(駅・商業施設内など)
この時点で左右を見比べ、顧客のニーズ(Jobs, Pains, Gains)と自社の提供価値(P&S, Relievers, Creators)がしっかり対応しているか(=フィットしているか)を確認します。QBハウスの場合、顧客が最も嫌がる「不確実性」や「時間超過」といったペインに対し、サービスの中核が見事に突き刺さっていることが分かります。
ステップ3:体験価値の視点で検証する
キャンバスで設計した価値が、顧客の一連の体験(使用前・中・後)を通して一貫して提供されているかを確認します。
【体験価値の検証】
- 使用前:混雑・所要・価格が一目で分かり、その場で意思決定 → 予定を崩さずタスクを前倒し。
- 使用中:10分で計画通り完了、説明最小・静かな接客で疲れない。
- 使用後:手入れが簡単で持ちがよく、どの店舗でも再現 → 清潔感の継続とルーティン化。
- 累積体験:回数を重ねるほど「時短・コスパ・安心」が学習・固定化され、散髪は”面倒な用事”から”スマートな自己管理習慣“へシフト。
ステップ4:提供価値を簡潔な言葉に明文化する
最後に、キャンバスで整理した価値提案を、誰にでも伝わる簡潔な言葉にまとめます。これは、エレベーターピッチやマーケティングメッセージの核となります。
【提供価値の明文化】
私たちの提供する価値は 「スキマ時間で清潔感を維持できる、10分の明朗会計カット」。
「予約不要で即判断・短時間で身だしなみを整えられる」ことや
「待ち時間や過剰接客、品質ブレと料金不安を避けられる」 ことにより
「限られた時間と費用の中で清潔感という社会的シグナルを継続」 したい
「忙しく、コスパを重視する時短層」 を助けます。
このように、一連のプロセスを通じて、顧客の深いインサイトに基づいた強力なバリュープロポジションが言語化されました。ぜひこの手順を参考に、ご自身の事業でも実践してみてください。
【講師の視点】キャンバス活用の実践的アドバイス
- 最初は大きく広げて:最初から完璧なキャンバスを作ろうとせず、まずはチームでブレインストーミングを行い、付箋などを使ってアイデアを自由にたくさん出していくのが効果的です。
- 顧客セグメントを絞る:複数の顧客セグメントがいる場合は、セグメントごとにキャンバスを作成しましょう。ターゲットを絞ることで、よりシャープな価値提案が可能になります。
- 検証を繰り返す:キャンバスは一度作って終わりではありません。顧客インタビューなどを通じて得られた新しい発見を元に、何度も見直し、仮説の精度を高めていくことが成功への道です。
定義した価値を「検証」する次なるステップへ
バリュープロポジションキャンバスを通じて、顧客に提供すべき価値の「仮説」を明確に言語化できたら、次はいよいよその仮説が本当に市場に受け入れられるのかを「検証」するフェーズへと移ります。
机上で描いた価値が、顧客にとって本当にお金を払うほどの魅力があるのか。それを確かめるための強力な手法が、MVP(Minimum Viable Product)を用いた価値検証プロセスです。
MVPの具体的な考え方や進め方、そして顧客から本音を引き出すためのソリューションインタビュー、プロダクトインタビューの技術については、次回の記事で詳しく解説します。ご期待ください。
まとめ:顧客提供価値は「顧客との対話」から生まれる
本記事では、新規事業成功の鍵となる「顧客提供価値」について、その本質から具体的な作り方、検証プロセスまでを網羅的に解説してきました。
- 顧客提供価値とは、顧客が製品やサービスから得られる便益のことであり、「得られる価値」が「支払う対価」を上回る時に購入が生まれます。
- 価値は3つの側面で構成され、基本的な「機能的価値」、感情に訴える「情緒的価値」、そして一連の体験全体で評価される「体験価値」があります。
- 価値の源泉は、人間の根源的な「欲求(ERG理論)」と、顧客が置かれた「状況(ジョブ理論)」の掛け合わせにあります。
- バリュープロポジションキャンバスは、顧客のニーズと自社の提供価値を接続し、フィットさせるための強力な思考ツールです。
- MVPを活用した検証プロセスを通じて、価値仮説を最小限のリスクで検証し、Problem-Solution Fit(PSF)を目指すことが成功への道筋です。
最も重要なことは、顧客提供価値は机の上で生まれるものではなく、顧客との継続的な対話と学びのサイクルの中からしか生まれない、ということです。本記事で紹介したフレームワークや手法を手に、ぜひ顧客の世界に飛び込み、彼らが本当に求めている価値を見つけ出す旅を始めてください。
よくある質問(FAQ)
- BtoCとBtoBで、価値提案の考え方に違いはありますか?
-
基本的な考え方は同じですが、BtoBでは考慮すべき点が増えます。BtoCが個人の感情や欲求を直接のターゲットにするのに対し、BtoBでは「企業(組織)」の課題解決が主目的となります。そのため、ROI(投資対効果)や業務効率化といった合理的な「機能的価値」が重視される傾向があります。しかし、本記事で解説した通り、決裁者とエンドユーザーでは求める価値が異なり、個人の評価やキャリア、安心感といった「情緒的価値」や「体験価値」も購買決定に大きく影響します。関係者それぞれの価値を設計する多面的な視点が不可欠です。
- 既存事業の価値を見直したい場合、どこから手をつければ良いですか?
-
まずは、現在の顧客が「なぜ自社の製品・サービスを使い続けてくれているのか」を深掘りすることから始めるのが良いでしょう。既存顧客へのインタビューを通じて、「Customer Jobs(顧客の仕事)」や「Gains」「Pains」を再定義し、バリュープロポジションキャンバスを改めて作成してみてください。もしかしたら、自社が想定していなかった価値を顧客が感じているかもしれません。その「価値の源泉」を特定し、強化していくことが、顧客満足度の向上や競合優位性の再構築に繋がります。
- 顧客インタビューがうまくできません。何かコツはありますか?
-
最も重要なコツは「仮説を検証しに行く」のではなく「学びに行く」という姿勢です。自社の製品を売り込もうとしたり、顧客に同意を求めたりするのではなく、「顧客の専門家」である相手から教えを乞う「弟子」になりきってください。未来の行動(「もしあったら使いますか?」)ではなく、過去の事実(「〇〇で困った時、どうしましたか?」)を聞くこと、そして「なぜ?」を繰り返して深掘りすることが、顧客の本音を引き出す鍵となります。
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