しゃぶ葉はなぜ若者を惹きつけるのか──UGCと“居場所消費”を再設計した飲食店マーケティング

はじめに:なぜ“しゃぶしゃぶ”が若者の居場所になったのか

JK(女子高生)

週末のショッピングモールでしゃぶ葉を覗くと、少し意外な光景に出会う。

湯気の向こうにいるのは、家族連れやシニア層ではなく、女子高生グループや大学生の友人同士だ。

彼らは慌ただしく食べて席を立つわけでもなく、2〜5時間滞在し、笑い、アレンジを試し、SNSに投稿し、また話し込む。

飲食店なのに、どこか カフェの居心地 があり、

仲間が集まる 部室の空気 があり、

スタバのような サードプレイス的な安心感 もある。

なぜ“しゃぶしゃぶ”という古典的な料理ジャンルが、若者にとって「遊び場」や「溜まり場」のような存在に再発明されたのか。

その背景には、飲食店マーケティングの地殻変動ともいえる流れがある。

・SNSが行動のハブ化
・「映える」より「共有しやすい体験」への価値シフト
・飲食店が“居場所”として選ばれる時代へ
・カスタマイズ文化(タピオカ、ドリンク、韓国グルメ)の浸透

しゃぶ葉は、この変化に対して明確な戦略を持っていた。

それは、しゃぶしゃぶというカテゴリを再定義し、
“食のテーマパーク”として若者の時間を奪いにいく という大胆な方針だ。

本稿では

STP → 価値設計 → 体験 → UGC → オペレーション → 戦略整合性

までを、構造的に解きほぐしていく。


しゃぶ葉というブランドの本質:食のテーマパーク化

しゃぶ葉を理解するために、まず押さえるべきことがある。

それは、ここが “料理を食べる場所”ではなく“体験を組み立てる場所 だということだ。

■選択肢そのものが“遊び道具”になっている

しゃぶ葉の魅力は、圧倒的な選択肢にある。

・6種類以上のだし(白だし、柚子塩だし、赤チゲ味噌だしなど)から2種類を選択
・薬味の棚
・たれのアレンジゾーン
・野菜・肉・麺類・デザートのバイキング
・季節限定メニューの入れ替わり

これらはただのラインナップではなく、

「自分だけの味」を創るための素材だ。

高級しゃぶしゃぶ店が「完成度」で勝負するのに対し、

しゃぶ葉は、“レイヤーを重ねる楽しさ”で勝負している。

■「食べる」ではなく「遊ぶ」体験へ

しゃぶ葉が提供しているのは、

食のエンターテインメント化だ。

鍋を囲むだけで自然に会話が生まれ、

選ぶ→混ぜる→試す→比べる

という一連のプロセスが、カジュアルな“遊び”になる。

これは飲食店ではなく、

“日常のテーマパーク”

に近い体験設計だ。

■ブランドポジションは未開拓ゾーン

しゃぶ葉は、既存のカテゴリのどれにも当てはまらない。

・高級しゃぶしゃぶ:特別感はあるが高額
・ファミレス:食事中心で遊び要素が薄い
・格安食べ放題:量はあるが体験がない

しゃぶ葉はこのどれとも競合せず、

「日常で遊べる、居心地の良いしゃぶしゃぶ」

という新しいカテゴリを切り拓いた。


STPの妙:ターゲティングがJKと大学生を捉えた理由

しゃぶ葉の戦略の中心には、非常に巧みな STP がある。

■Segmentation:顧客を“生活文脈”で切り分けた

一般的な飲食店のセグメント

一般的な飲食店は

・ランチ客
・ファミリー
・仕事帰り

といった「用途」でセグメントを切る。

しかししゃぶ葉は、

“時間の使い方 × 生活の余白” で顧客を切り分けた。

若者は

・放課後に3時間話したい
・カフェは長居しづらい
・ファミレスは“食べたら出る空気”
・レジャー施設は高い
・遊びと食事を同時に叶えたい

というニーズを持っていた。

この“未解決の市場”を見抜いたことが大きい。

■Targeting:手頃な価格で長時間楽しめる若者層

しゃぶ葉でわかものが楽しむ

しゃぶ葉が刺さったのは以下の層だ。

・女子高生(写真・投稿・友達時間)
・大学生(サークル・デート・仲間時間)
・Z世代カップル(遊び+食事)

いずれも SNS との親和性が高く、

「安く長く遊べる場所」を探す層である。

価格帯は、平日ランチの最も安いコースで1,199円(税込)から、豚バラしゃぶしゃぶ食べ放題コースで1,539円(税込)と、若者層が気軽に利用できる手頃な設定となっている。

■Positioning:胃袋ではなく“時間”を奪いに行った

しゃぶ葉は飲食店としては珍しく

“時間価値”を戦場にした。

比較してみると鮮明だ。

業態強み弱み
高級しゃぶしゃぶ特別感日常使いできない
サイゼリヤコスパ遊び要素が少ない
カフェ居心地食事満足度が弱い
食べ放題チェーン満腹遊び要素が少ない

しゃぶ葉だけが

「安い × 長居できる × 遊べる × 満足度高い」

という領域を占有した。

これは、飲食マーケの鉄則

利用シーンが明確なブランドは強い

を体現している。


SNS × UGC:しゃぶ葉をバズらせた“アレンジ文化”という武器

しゃぶ葉アレンジ投稿

しゃぶ葉で自然発生した UGC は、飲食店としては異例の規模だ。

■投稿したくなる「創作プロセス」そのものが価値

しゃぶ葉での体験は

「完成品」ではなく「創作プロセス」が主役。

・豆乳だし×辛みだしで火鍋風

・和風だし×卵で即席すき焼き

・プリン×白玉で裏デザート

料理の写真だけでなく、

作る過程そのものが投稿される。

これは飲食店にとって非常に強い。

■比較文化・共創文化が自然発生する

アレンジ鍋には“正解”がない。

だからこそ真似しやすい。

投稿 → 模倣 → 比較 → 再投稿

というUGCフライホイールが自然に回る。

これは飲食ブランドとしては破格の構造だ。

■「楽しそう」が最強の友達推薦理由になる

しゃぶ葉は、味でも価格でもなく

「楽しそう」 で友達を誘える。

SNS上では

「しゃぶ葉、遊べるから行こう」

という文脈が繰り返し現れる。

これは飲食店ではなく、

レジャー施設の推薦理由に近い。

■自然UGCは広告費ゼロの自走ブランドを生む

・高拡散性
・友達同士の口コミ
・投稿が永続する構造
・低コスト

自然UGCがここまで成立している飲食ブランドは稀だ。

しゃぶ葉の強さはまさにここにある。


オペレーション効率の勝利:価値を“顧客側の創造”に寄せた

しゃぶ葉のビジネスモデルの凄みは、

“高付加価値 × 低コスト構造”の両立にある。

■選択肢を増やしても店側の負担は増えない

だし・薬味・具材の多様性は、

実は店側のオペレーション負荷にならない。

・だし:鍋に入れるだけ
・薬味:セルフ
・具材:バイキング補充のみ

価値を上げても、店側の労働量はほぼ一定。

■価値の源泉を“顧客側”に置いた逆転構造

普通の飲食店では「価値=店が作る料理」。

しかししゃぶ葉では

価値=顧客が創作する体験

になっている。

これこそが利益構造の核。

■セルフ方式×長時間滞在=労働集約度が大幅に下がる

・注文を受ける必要なし
・料理運びも不要
・スタッフは補充と片付けが中心

これにより、

“長居されても利益が落ちない”

という飲食店としては異端のモデルが成立する。


“長時間滞在”を売りに変えた:時間の奪い合いという戦場

Z世代は“食事の満足”より“過ごす時間”を重視する。

■若者は「安くて長くいられる場所」を求めている

・カフェは混雑で長居に気を使う
・ファミレスは食事中心で滞在圧力がある
・レジャー施設は高額
・屋外は天候の制約がある

しゃぶ葉はこれらの弱点をすべて避け、

長時間滞在を前提にした空間をつくった。

■飲食店ではなく“滞在型サービス”に近い

しゃぶ葉が提供しているのは

“食べながら過ごせる遊び場”だ。

飲食・カフェ・レジャーの市場を横断する新しい体験価値を提供している。

■長居するほど価値が増える構造

長時間滞在すると

・アレンジが増える
・写真が増える
・SNS投稿が増える
・友達に薦めたくなる

滞在が集客エンジンになる稀有な飲食店だ。


すかいらーくグループとしての構造的強さ

しゃぶ葉の急成長は、

バックにある すかいらーくの経営インフラ あってこそ。

■大量調達によるコスト優位

最大級の外食チェーンとしての調達力は、食べ放題ビジネスの生命線となる。

■オペレーション標準化の強さ

ファミレス運営で培った

・厨房導線
・補充ルール
・スタッフ教育

のノウハウが、しゃぶ葉を“軽量モデル”にしている。

■既存店舗からの転換による効率的な出店

すかいらーくグループの他ブランド(ガストなど)からの業態転換により、

物件探しや初期投資を最小化し、

短期間で全国へ展開。

一部の店舗はこの転換方式を採用することで、効率的な店舗拡大を実現している。

■グループ全体のポートフォリオの中で、唯一無二の役割

・ガスト=日常食
・バーミヤン=中華
・ジョナサン=洋食
・しゃぶ葉=滞在型しゃぶしゃぶ

グループ戦略の中でも、しゃぶ葉は“成長領域”として位置づけられている。


自然UGCが育てたロイヤルティ──“自走型ブランド”という新しいあり方

しゃぶ葉で投稿が増え続けるのは、

顧客体験そのものが投稿の動機になるよう設計されているからだ。

・比較したくなる
・真似したくなる
・友達と共有したくなる
・“遊んだ証拠”として残したくなる

UGCが止まらない理由は、

体験の構造がUGCと完全一致している ためだ。

この“自走型マーケティング”が、

広告費ゼロでもブランドが伸び続ける理由になっている。


まとめ:飲食店マーケティングの“新しい勝ち筋”としてのしゃぶ葉

しゃぶ葉は、

飲食店の常識をすべて逆転させたブランドだ。

・カテゴリ再定義
・生活文脈に基づくSTP
・自由度と遊びを中心にした価値設計
・滞在型サービス化
・自然発生UGCによる自走成長

これらが一本の線でつながることで、

しゃぶ葉は「外食チェーン」ではなく

“若者の日常にあるテーマパーク” へと進化した。

飲食店が料理で戦う時代は終わりつつある。

これからの飲食店は、どれだけ

・時間をデザインできるか
・体験を設計できるか
・UGCを内蔵できるか

が問われる。

しゃぶ葉はその未来を、一足先に実装したブランドだ。

そしてその成功は、飲食業界だけでなく、

「日常シーンを再発明したいすべての事業者」 にとって強烈な示唆を与えている。

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