ペルソナマーケティング事例に学ぶ設計の共通法則――chocoZAP・ASKUL・タイミーが深掘りで答えを出した方法

目次

はじめに

「ターゲットを決めたのに、チームで議論すると施策がバラバラになる」――そんな経験はないでしょうか。

マーケティングの教科書には「ペルソナを設定しましょう」と書かれています。でも実際には、ペルソナを設定したのに共通の判断基準が生まれないという状況が現場では多く起きています。その原因のほとんどは、ペルソナの解像度が足りないことにあります。

この記事では、chocoZAP・ASKUL・タイミーという3つのペルソナマーケティング事例を通じて、「セグメントとペルソナは何が違うのか」「なぜペルソナを深掘りするほど設計が一本になるのか」を解説します。

結論から言えば、ペルソナの本質は「属性のリスト」ではなく、「この人ならどうするか」という共通の判断基準です。3社の設計がいずれも一人の人物のPainとGainから逆算されているという事実は、ペルソナマーケティングの力を端的に示しているといえます。

FIXIT Insightsでは、研修・コンサル現場での実践から見えてきたペルソナ活用の考え方を、具体的な事例とともにお伝えします。

【本記事のスタンスについて】

本記事で紹介するペルソナ像(田中美穂・吉田香・佐藤健太)はいずれも、各社のサービス設計・価格設定・機能・出店戦略などの公開情報をもとに、FIXITが外部から推察・再現したものです。各社へ取材した事実や社内のマーケティング資料に基づくものではありません。「この設計から逆算するとどんな人物像が浮かび上がるか」という分析の視点でお読みください。


chocoZAPはなぜいま「女性専用店舗」を展開したのか

女性専用チョコザップ

2026年5月、RIZAPグループはchocoZAPの女性専用店舗を最大300店舗規模で展開する方針を発表しました。2026年1月にオープンした第1号店は5月時点で16店舗に拡大し、「非常に好調な利用状況」が報告されています。

女性会員から寄せられた声として、以下の2点が報道されています(※2026年5月・RIZAP広報部発表)。

  • 「運動中の姿を異性に見られるのが少し恥ずかしい」
  • 「女性一人で利用する際の安心感をさらに高めてほしい」

女性専用店舗には、AIカメラによる24時間監視・女性会員のみのアプリ解錠、有酸素マシン重点配置、ヨガマット・ストレッチエリアの拡充、セルフエステ・セルフ脱毛サービスといった施策が組み込まれています。

なぜこの設計が生まれたのかを理解するには、chocoZAPがそもそも「どんな人物」を起点にサービスを設計したかまで遡る必要があります。そしてその構造を理解したとき、女性専用店舗は「新しい施策」ではなく、ペルソナをさらに深掘りした結果の必然として見えてきます。


ペルソナ設定とは何か――セグメントと何が違うのか

「運動したい30代社会人」で止まると議論がバラバラになる理由

ペルソナ設定の第一歩は、多くの場合「ターゲットセグメント」から始まります。しかしセグメントだけでは、チームの議論が揃わないことがほとんどです。

試しに「運動したい30代社会人」というターゲットセグメントを共有した状態で、各担当者に施策を考えてもらうとどうなるでしょうか。

担当考えた施策
マーケ担当「週3回以上通えるコミットメントをテーマに変身証言広告を打ちましょう」
施設担当「フリーウェイトとパーソナルトレーナーゾーンを充実させましょう」
商品担当「月額2万円・完全会員制・サウナ&スパ併設でプレミアムジムにしましょう」
立地担当「郊外の広大な物件に大型施設を構えましょう」

全員「運動したい30代社会人」を想定して考えているはずなのに、方向性がバラバラです。理由はシンプルで、それぞれの頭の中に「違う人物」がいるからです。

違う運動したい人を思い浮かべている

セグメントは輪郭を示してくれますが、「その人が何を感じ、何を恐れているか」は共有できません。

ペルソナ設定でチームの判断基準が揃う

セグメントとペルソナ

ペルソナとは、ターゲットセグメントを「生身の一人の人物」まで解像度を上げた人物像のことです。名前・年齢・職業・生活習慣だけでなく、Will(実現したいこと)・Must(やらなければならないこと)・Pain(苦痛)・Gain(得たい状態)を具体的に描きます。

ペルソナを共有したチームは、どんな施策の判断もひとつの問いに帰結できるようになります。

「この人ならどうするか?」

この問いが、チームの共通言語になる――それがペルソナ設定の本質的な価値といえます。


ペルソナ設定の方法① BtoC事例:chocoZAP「田中美穂」で逆算する

Will / Must / Pain / Gainの整理

チョコザップのペルソナ

chocoZAPのサービス設計から逆算すると、「田中美穂(32歳、東京都世田谷区、マーケティング職、独身)」という人物像が起点に置かれていたと推察されます。

田中さんの生活の実態(推察):
平日は9〜20時まで仕事、残業もある。週末は友人と食事や買い物を楽しむ。健康診断のたびに「もう少し運動してください」と言われるが、数年前に入会したスポーツクラブは3ヶ月で行かなくなり、退会の連絡すら面倒で半年分の月会費を無駄にした苦い記憶がある。

内容
Will(実現したいこと)体型を維持したい。「運動している自分」になりたい。
Must(やらなければならないこと)今の生活リズムを大きく変えずに運動習慣をつけたい。コミットを増やす余裕はない。
Pain(苦痛)気合いを入れないとジムに行けない。また失敗したときの自己嫌悪と費用が怖い。本格的なジムの雰囲気が怖い。
Gain(得たい状態)「ちゃんとやれた達成感」より、まず「罪悪感がない状態」が欲しい。失敗してもリスクが低い安心感の中で試してみたい。

田中さんの最大のPainは、「高いコミット・高い月額・本格的な雰囲気」への恐れです。一度失敗した経験があるため、「また失敗したら怖い」という気持ちが行動を止めていると考えられます。

エンパシーマップで解像度を上げる

チョコザップのペルソナのエンパシーマップ

ペルソナ設定においてさらに解像度を上げるツールとして有効なのがエンパシーマップです。「Think & Feel(考え・感じていること)」「Hear(耳にしていること)」「See(見ているもの)」「Say & Do(言動)」「Pain」「Gain」の6視点でペルソナを深掘りします。

視点田中さんの場合(推察)
Think & Feel「また明日にしてしまった…」という罪悪感。「友達はやってるのに」という焦り。
Hear「chocoZAP、近くにできるらしいよ。私服で行けるんだって」(同僚から)
SeeSNSのビフォーアフター投稿。健診の結果票。駅近のchocoZAP開店。
Say & Do「今度こそちゃんと運動しよう」と思いながらジムを検索して、そっと閉じる。
Pain気合い・着替え・移動という心理的ハードル。また続かないときの恐れ。
Gain「罪悪感がない状態」。気合いなしで「とりあえず来られた」を積み重ねたい。

エンパシーマップを使うことで、属性情報だけでは見えなかった「その人の一日」が立体的に描き出されます。

「田中さんならどうか」が月額3,000円・私服OKを生んだ

ペルソナを共有した瞬間、設計の判断基準が一本になります。

設計案「田中さんなら?」判断
週3コミット前提の変身証言広告「週3…続けられる自信ない。また失敗する未来が見える」
フリーウェイト・パーソナルトレーナー充実「使い方わからないし、鍛えてる人の中に入りづらい」
月額2万円・完全会員制「また続かなかったときの損が大きすぎる」
月額3,000円以下「続かなくても損が小さい。試せる」
私服OK・着替え不要「これなら気合いなしで来られる」
「5分でもOK」というメッセージ「ちゃんとやらなくていいんだ。罪悪感がない」
駅近に多数出店「帰り道にふらっと寄れる」

月額3,000円・私服OK・5分でいい・駅近出店という設計はバラバラに見えますが、すべて田中さんのPainとGainから逆算できます。ペルソナという一人の人物が、設計全体を一本につないでいると考えられます。

【講師の視点】

研修の場でよく見られるのが「施策を思いついてからペルソナをあてはめる」という順番の逆転です。ペルソナは施策の正当化に使うものではなく、設計の起点に置くものです。「この人ならどうするか」という問いが先にあり、そこから施策が導き出される――この順序を守るだけで、チームの議論の質が大きく変わります。


ペルソナをさらに深掘りすると、設計はもう一段変わる

田中さんの中に潜んでいたもうひとつのPain

chocoZAPの初期設計は、田中さんのPainを的確に解消しているといえます。しかし公開されている利用者の声からは(※)、田中さんの中に別のPainが潜んでいたことが見えてきます。

※2026年5月のRIZAPグループ発表・報道に基づく

「運動中の姿を異性に見られるのが少し恥ずかしい」
「女性一人での利用に、安心感がほしい」

これはフィットネス初心者の女性に特有のPainです。初期ペルソナでは「本格的なジムの雰囲気が怖い」として描けていましたが、実際の利用が始まることで、「異性の目への心理的抵抗」というより具体的な次元が明らかになったと推察されます。

女性専用店舗の全設計がペルソナから逆算できる

このPainを起点にすれば、女性専用店舗の設計はすべて説明できます。

女性専用店舗の施策「田中さんなら?」
AIカメラによる24時間監視・アプリ解錠「一人でも安心して来られる」
有酸素マシン重点配置「使い方がわかる。ウェイトより気軽に使える」
ヨガマット・ストレッチエリア拡充「ストレッチだけでも来た意味がある。5分でいい」
セルフエステ・セルフ脱毛サービス「運動のついでに美容もできる。来ること自体の意味が増える」
異性の目がない環境「気合いを出さなくていい理由がもうひとつ増えた」

ペルソナは一度設定したら終わりではありません。利用者の声が積み重なるほど、ペルソナの解像度は上がり、新しい設計の種が見えてきます。chocoZAPの女性専用店舗は、その好例といえるでしょう。

【現場でよくある失敗例】

「ペルソナは一回決めたらしばらく変えない」という思い込みは、現場でよく見られるパターンです。ペルソナはスナップショットではなく、顧客との接触から継続的に更新されるべきものです。利用者の声からペルソナを深掘りし続けることで、「次の設計のヒント」が自然と浮かび上がってきます。


ペルソナ設定の方法② BtoB版:ASKULの「吉田香」

BtoBは「企業ペルソナ×個人ペルソナ」の2層構造

BtoBペルソナに不可欠な「2層構造」

BtoBのペルソナ設定では、BtoCと大きく異なる点があります。購買の意思決定が「企業」と「その中の人」という2つの次元で行われるため、企業ペルソナ(どんな会社か)と個人ペルソナ(その会社の誰か)の2層構造で考える必要があります。

ASKULの場合、企業ペルソナとして推察されるのは「従業員15〜40名・専任購買部門なし・オフィス消耗品の多品種少量ニーズがある中小企業」です。しかしこの企業ペルソナだけでは、翌日配達が必要かどうかは決まりません。

「吉田さんならどうか」が翌日配達・ワンストップを生んだ

ASKULのペルソナ

ASKULのサービス設計から推察される個人ペルソナとして描けるのが、「吉田 香(28歳、不動産管理会社・総務担当)」という人物像です。

吉田さんの本来業務は来客対応・電話応対・会議室予約。消耗品の発注は「入社したときにそのまま引き継いだ仕事」で、コピー用紙は地元の文具屋に電話、清掃用品はホームセンターにFAX、トイレットペーパーは近所のスーパーに買い出しと、3社に分散して処理していたと考えられます。

Will / Must現状課題(ギャップ)
Will発注業務を最小の手間で終わらせ、本来業務に集中したい複数業者への個別連絡が本来業務を圧迫している「一か所・短時間で終わらせる」選択肢がなかった
Must消耗品を切らさず、コストを上司に説明できる状態にする在庫切れ後に発注して数日待つ。価格が不透明「切れる前に確実に届く」かつ「価格が明示される」サービスがなかった

このペルソナを共有すれば、「週1まとめ配送」という一見合理的な設計が吉田さんには機能しないことがすぐわかります。「在庫が切れてから気づく」サイクルが常態化しているため、週1では待てないのです。

ASKULの設計「吉田さんなら?」判断
週1まとめ配送「在庫が切れてから気づくのに、翌週まで待てない」
品目ごとに別業者「それが今の問題そのもの」
価格交渉制・見積もり必要「毎回見積もりを取る時間も気力もない」
翌日配達・ワンストップ・価格明示「これなら発注業務が一か所・短時間で終わる」

BtoBのペルソナ設定では、「会社を理解すること」と「その会社の中の人を理解すること」は別物です。企業ペルソナと個人ペルソナの両方の解像度が揃ってはじめて、設計の理由が見えてきます。


3社のマーケティング事例に共通する法則

タイミー「佐藤健太」――「バイトを探している人」では従来と同じになる

タイミーペルソナ

タイミーのサービス設計から逆算して描けるペルソナが「佐藤 健太(20歳、大学2年生、バンドサークル所属)」です。このペルソナは、indeedやバイトルが前提とする「レギュラーで働く意志がある人」の外側に立っているといえます。

佐藤さんのPainは、「固定シフト・継続前提・面接あり」という求人サービスの構造そのものへの恐れです。バイトを始めたらシフトを断れなくなるという記憶から、「また同じことになる」という未来が頭の中でリアルに見えてしまう。お金は欲しいのに、踏み出せないまま空き時間を過ごしていると推察されます。

「面接なし・当日登録・即日勤務・即日払い」というタイミーの設計は、このPainをすべて取り除んでいます。面接なしは「手抜き」ではなく、「今日だけ・完結・翌日には何も残らない」というGainへの必然の応答といえます。

セグメント→ペルソナ→設計逆算の流れ

3社のペルソナマーケティング事例を並べると、共通の構造が見えてきます。

chocoZAPASKULタイミー
セグメント運動したい30代社会人中小企業向け事務用品市場収入が欲しい学生・フリーター
推察される個人ペルソナ田中美穂(32歳・マーケ職)吉田香(28歳・総務担当)佐藤健太(20歳・大学生)
共通のPain「また失敗する」という恐れ複数業者への分散発注・不透明な価格レギュラー化・拘束への恐れ
設計の核心月3,000円・私服OK・5分OK翌日配達・ワンストップ・価格明示面接なし・即日払い・アプリ完結

いずれも、セグメントからは出てこない設計です。一人の人物のPainとGainに向き合うことで、「なぜこの設計でなければならないか」が初めて一本の理由でつながると考えられます。


【講師の視点】ペルソナ設定を「静的プロフィール」にしない3つの問い

ペルソナ設定の落とし穴のひとつは、作って終わりにしてしまうことです。ペルソナは設計の起点であり、継続的に問い直されるべき問いの集合体です。

現場で活用できる3つの問いを紹介します。

①「この人は今日、何を見て、何を感じているか?」
エンパシーマップの「See」「Think & Feel」を定期的に問い直すことで、ペルソナが「生きた人物」として機能し続けます。

②「この設計は、この人のPainのどれを取り除いているか?」
施策を思いついたとき、ペルソナのPainリストと照合する習慣が設計の一貫性を守ります。

③「この人が使い始めたとき、次にどんなPainが生まれるか?」
chocoZAPの女性専用店舗のように、利用が進むほど新たなPainが見えてきます。ペルソナは使われながら深掘りされるものという前提で運用することが重要といえます。


まとめ

本記事では、chocoZAP・ASKUL・タイミーのペルソナマーケティング事例を通じて、ペルソナ設定の本質と実践方法を解説しました。

3つの要点を振り返ります:

  • セグメントとペルソナは別物です。セグメントは輪郭を示しますが、「この人ならどうするか」という共通の判断基準はペルソナを具体化して初めて生まれます。
  • ペルソナから逆算すると、設計の理由が一本につながります。3社の設計はいずれも一人の人物のPainとGainから導き出せると考えられ、バラバラに見えた施策が必然の組み合わせとして見えてきます。
  • ペルソナは深掘りするほど、新しい設計の種が生まれます。chocoZAPの女性専用店舗は、初期ペルソナをさらに深掘りした結果の産物といえます。

ペルソナマーケティングの第一歩は、「属性を並べること」ではありません。「この人は今日、何に困っているか」を具体的に描くことから始まります。

この記事を読み終えたあなたの次の一歩は、担当する事業・サービスのペルソナを「Will / Must / Pain / Gain」の4軸で書き出してみることです。その作業を通じて、チームの議論が変わる瞬間を体験してみてください。


よくある質問(FAQ)

Q. ペルソナ設定とターゲティングの違いは何ですか?

ターゲティングは「どの市場・セグメントを狙うか」という戦略的な選択です。ペルソナ設定はその先にある「そのセグメントの中の一人を具体的に描く作業」です。ターゲティングで輪郭を決め、ペルソナで体温を与える、という関係といえます。

Q. ペルソナ設定の方法として、何から始めるとよいですか?

まずは「Will(実現したいこと)」「Must(やらなければならないこと)」「Pain(苦痛)」「Gain(得たい状態)」の4項目を埋めることから始めることをお勧めします。属性(年齢・職業)は補足情報であり、Painが具体的でないと設計の根拠になりません。

Q. エンパシーマップとは何ですか?ペルソナとの違いは?

エンパシーマップは、ペルソナの解像度をさらに上げるためのツールです。「Think & Feel(感じていること)」「Hear(耳にしていること)」「See(見ているもの)」「Say & Do(言動)」「Pain」「Gain」の6視点でペルソナを深掘りします。ペルソナが「誰か」を描くとすれば、エンパシーマップは「その人の一日」を描くものと理解するとわかりやすいでしょう。

Q. BtoBでペルソナ設定をする場合、BtoCと何が違いますか?

BtoBでは「企業ペルソナ(どんな会社か)」と「個人ペルソナ(その会社の誰が意思決定するか)」の2層で考える必要があります。企業属性だけでは「誰が発注ボタンを押すか」が見えず、設計が決まりません。現場で実際に業務を担う一人を具体化することが設計の鍵になります。

Q. ペルソナが古いと言われる理由は何ですか?

「ペルソナは古い」という批判の多くは、「ペルソナを作って使わない」「思い込みで設定して更新しない」という運用の問題に起因します。ペルソナ自体が時代遅れなのではなく、静的なプロフィールとして扱う使い方が古いのです。顧客の声や利用データを通じて継続的に深掘りされるペルソナは、設計の核心にある道具であり続けます。

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