カスタマージャーニーマップで「本質的な課題」を見つける方法|GO/Uber・Sansan事例で学ぶ課題仮説の立て方
「カスタマージャーニーマップを作ってはみたものの、出てくる課題が『待ち時間が長い』『使いにくい』といった当たり前の内容ばかりで、次の一手につながらない」。研修やコンサルティングの現場で、こうした悩みを本当によく耳にします。
この記事を読めば、カスタマージャーニーマップから表面的な課題ではなく「本質的な課題仮説」を導き出す考え方が理解でき、明日から自社のジャーニーマップを見直すための具体的な視点が手に入ります。
結論から言うと、優れた課題仮説は「事象」をそのまま課題にするのではなく、時系列の感情の変化(感情の谷)を可視化し、「なぜその瞬間に感情が落ちるのか」を構造まで掘り下げたときに初めて生まれます。この記事では、GO・Uberという身近なBtoC事例と、Sansanというユニークなアプローチを持つBtoB事例を通じて、そのプロセスを具体的に解説します。
本記事は、事業開発・マーケティング研修やコンサルティングを提供するFIXITが、実際の研修カリキュラムで使用している事例分析のフレームワークをもとに構成しています。
なぜ「浅い課題設定」に陥るのか?
カスタマージャーニーマップの作り方を解説する記事は数多くありますが、多くの場合「作った後にどう使うか」までは踏み込みません。その結果、多くの現場で同じ失敗が起きています。
よくある失敗:事象をそのまま課題にしてしまう
タクシーがなかなか来ないという体験を例に考えてみましょう。多くの人は、この体験から「タクシーを呼ぶのが不便」「待ち時間が長い」という課題を導き出します。一見自然な結論に見えますが、これは事象をそのまま課題として言い換えているだけです。
「待ち時間が長い」という課題設定では、解決策は「配車台数を増やす」という物理的な打ち手にしかたどり着けません。しかし、これはコストがかかるうえに、抽象的すぎてマーケティング戦略や具体的な打ち手(誰に・何を・どう伝えるか)に落とし込みにくいという限界があります。
【講師の視点】
研修で「このジャーニーの課題は何ですか」と聞くと、9割近くの受講者が「待ち時間が長いこと」と答えます。間違いではないのですが、それでは解決策が「もっと頑張って早くする」という精神論にしかならないのです。本当のボトルネックは、事象を「時系列の感情の波」として書き出したときに初めて姿を現します。同じ10分でも、見通しがあるかどうかで感情の谷の深さはまったく異なります。この差に気づけるかどうかが、課題設定の質を大きく左右します。
課題仮説の精度を上げる「3つの問い」と課題の三層構造
浅い課題設定を避けるために、以下の3つの問いをセットで使うことを推奨しています。
- 感情の谷はどこか? ―― 時系列でマッピングし、最も感情が落ち込む「最大のペイン」を特定する
- なぜその瞬間に感情が落ちるのか? ―― 事象(表面課題)で終わらせず、その背景にある構造的課題を掘り下げる
- その課題は誰に波及しているのか? ―― 特にBtoBにおいて、個人の痛みが同僚・管理者・顧客へどう連鎖するかを追跡する
感情の谷はどこか?
まず、顧客の行動・タッチポイント・思考・感情をステージごとに時系列で書き出します。感情を折れ線グラフのようにイメージすると、どのステージで感情が最も落ち込んでいるか(=最大の谷)が視覚的に見えてきます。この「最大の谷」こそが、最優先で解決すべき課題の在り処です。
なぜその瞬間に感情が落ちるのか?(表面課題→本質課題→構造的課題)
感情の谷を見つけたら、そこで起きている出来事を3つの層に分解します。
| 課題の層 | 内容 | 問い |
|---|---|---|
| 表面課題 (事象) | 目に見える出来事そのもの | 何が起きているか? |
| 本質課題 (感情) | その出来事によって顧客が感じている本当の感情・心理的な負荷 | なぜそれが辛いのか? |
| 構造的課題 (根源) | その感情が生まれる原因となっている、仕組み・情報設計・プロセス上の欠陥 | なぜそれが起きる構造になっているのか? |
「表面課題」で思考を止めてしまうと、解決策も表面的なものにしかなりません。「構造的課題」まで掘り下げて初めて、根本から効く解決策が見えてきます。
その課題は誰に波及しているのか?(BtoB視点)
BtoCの体験では、感情の谷は基本的に個人に閉じます。一方でBtoBの体験では、一人の担当者の課題が同僚・マネージャー・顧客へと組織全体に波及していきます。この違いに気づかず個人視点だけで課題を分析すると、BtoBならではの大きな機会損失を見逃すことになります。この点は、後述するSansanの事例で詳しく解説します。
【現場でよくある失敗例】
「課題は何ですか」と聞かれた受講者の多くが、感情が下がったステージの「行動」だけを課題として挙げてしまいます(例:「名刺を探す作業が大変」)。しかしそれは表面課題にすぎません。「なぜ探す作業が発生するのか(構造的課題)」まで掘り下げないと、真に効果的な解決策には到達できないというのが、研修で繰り返し伝えているポイントです。
カスタマージャーニーマップの作り方(基本ステップ)
課題仮説を精度高く立てるためには、そもそものカスタマージャーニーマップの作り方が土台になります。ここでは基本ステップを、後述する事例と紐づけながら解説します。
ステップ1:ペルソナ・特定の状況・ゴールを定義する
まず分析の前提条件として、以下の3点を明確にします。
- ペルソナ(Who):どんな人物か(例:都市部勤務の30代会社員)
- 特定の状況(Situation):今どんな状況に置かれているか(例:外出先から次のアポに向かっている)
- 成し遂げたいこと(Goal):何を達成したいか(例:アポの時間に間に合うように移動を完了させたい)
この前提が曖昧なままだと、後続のジャーニー分析全体がぼやけたものになってしまいます。特に「特定の状況」を具体的に設定することが、リアルな感情の動きを描くための鍵です。
ステップ2:As-Isジャーニーを行動・タッチポイント・思考・感情で書き出す
現状(As-Is)の体験を、ステージごとに「行動」「タッチポイント」「思考」「感情」の4つの軸で書き出します。特に「思考」を顧客のセリフのような形で言語化すると、感情の動きがリアルに見えてきます。
ステップ3:感情の谷から課題仮説を立て、To-Beを設計する
最も感情が落ち込むステージ(最大の谷)を特定したら、前章の「3つの問い」を使って課題仮説を言語化します。そのうえで、課題仮説を解消した理想の体験(To-Be)を同じフォーマットで描き、As-IsとTo-Beを比較することで、解決策のインパクトを可視化します。
【実践で役立つ工夫】
As-Isのジャーニーマップを作る際は、「思考」の欄を必ずセリフ調で書くことをおすすめします。「待ち時間へのストレス」のような名詞化した表現ではなく、「あと何分で来るんだろう、電車に切り替えるべきか」というように一人称のセリフにすると、チームメンバー間で感情の解像度がぴったり揃い、議論が格段にかみ合うようになります。
ケーススタディ①:GO/Uber ― 「情報の非対称性」という真の課題(BtoC)
ここからは、実際の企業事例を通じて課題仮説の立て方を見ていきましょう。1つ目はタクシー配車サービスのGO・Uberです。
浅い課題設定「待ち時間が長い」の限界
ペルソナ:都市部勤務の30代会社員・田中さん
特定の状況:外出先から次のアポに向かっている。あと20分で着かないと間に合わない
成し遂げたいこと:アポの時間までに移動を完了したい

このような状況で、多くの人は「タクシーがなかなか来ない」ことを課題として捉え、「配車台数を増やす」という解決策を考えます。しかし、この課題設定のままでは、GOやUberが実際に選んだアプローチにはたどり着けません。
感情の谷はどこにあったか(二重の不確実性)
田中さんのAs-Isジャーニーを整理すると、以下のようになります。
| タクシーを探す | 路上・乗り場で待つ | 乗車 | 降車・支払い | |
|---|---|---|---|---|
| 行動 | 大通りで流しに手を上げるが素通り。乗り場を探す | 待機列に並び、スマホで時刻を何度も確認する | やっと乗車。行き先と「急いでいる」ことを口頭で伝える | 数分遅刻。現金を用意して降りる |
| 思考 | あと何分で来る?乗り場はどこだ? | 待つべきか、電車に切り替えるべきか。どっちが正解かわからない | 渋滞していないか不安。急いでいることが伝わっているか | 間に合わなかった。先方に謝らないと |
| 感情 | ↓ 焦り始める | ↓↓↓ 最大の谷 | ↑ やや回復 | ↓ 後悔・疲弊 |

感情が最も落ち込むのは「路上・乗り場で待つ」ステージです。ここで表面課題・本質課題・構造的課題を整理すると、次のように見えてきます。
- 表面課題:タクシーがなかなか来ない
- 本質課題:いつ来るかわからない不確実性が「待ち続けるか、手段を切り替えるか」の判断を奪っている
- 構造的課題:タクシーの現在位置・到着時刻の情報が、顧客側に一切開示されていない

つまり真のストレスは、待ち時間の長さそのものではなく、「いつ乗れるかわからない」という情報の非対称性にありました。特に次のアポや締め切りがある場面では、「待つか・切り替えるか」を判断できないことが二重のストレスになっていたのです。

解決策は「配車を増やす」ではなく「情報を開示する」こと
この課題仮説をもとに、GOやUberが実装した解決策を整理すると、次のようになります。
| 解決策 | 対応するステージ | 解決した本質 |
|---|---|---|
| アプリで現在地・到着時刻を表示 | 待つステージ | 不確実性の除去:あと何分で来るかを明示 |
| アプリ内で目的地を事前設定 | 乗車ステージ | 口頭での伝達ミスをゼロに |
| 事前クレジット決済 | 降車ステージ | 現金不要でスムーズな降車 |
重要なのは、解決策が「タクシーをたくさん走らせる」ことではなかった点です。情報を開示するだけで、感情の谷はほぼ解消されました。 課題仮説が正確でなければ、この解決策にはたどり着けなかったはずです。
情報の非対称性はどの業界にも潜んでいる(病院・宅配の例)
この構造は、タクシー配車以外の業界にも共通しています。
- 病院の待合室:「診察まで2時間待ち」よりも「あとどのくらいかかるかわからない」ことが最大のペインです。整理番号表示や順番通知アプリの導入で、待ち時間そのものを短縮しなくても体験は大きく改善します。
- 宅配便の再配達:「不在で受け取れない」よりも「何時に来るかわからない」ことが問題の本質です。配達時間の事前通知や追跡機能が、この不確実性を解消します。
物理的なプロセスそのもの(移動スピードや作業時間)を劇的に高速化できなくても、顧客側の「見通しのなさ」をゼロに近づけるだけで、体験上のペインは劇的に改善するという傾向があります。
ケーススタディ②:Sansan ― 個人の課題が組織の機会損失に波及する構造(BtoB)
2つ目の事例は、法人向け名刺管理サービスのSansanです。BtoBのジャーニーには、BtoCとは異なる独自の構造があります。
「名刺が見つからない」その裏にある構造的課題
ペルソナ:中小企業の営業担当・佐藤さん(30代)
特定の状況:展示会に参加し、多くの有望先と名刺交換した
成し遂げたいこと:展示会で出会った有望先にタイムリーにアプローチし、商談につなげたい
佐藤さんのジャーニーを整理すると、感情の谷は「名刺が見つからない」ステージに現れます。
| ステージ | 展示会で名刺交換 | 帰社後の整理 | 連絡準備 | 名刺が見つからない | 商談機会の喪失 |
|---|---|---|---|---|---|
| 行動 | 50枚の名刺を交換 | 名刺ホルダーや引き出しに仮置き | 2週間後、連絡しようと名刺を探す | 引き出しを漁り、同僚に聞いて回る | 連絡が大幅に遅れる |
| 感情 | ↑ 期待・高揚 | → やや面倒・後回し | ↓ 焦り | ↓↓↓ 最大の谷 | ↓↓ 後悔・無力感 |

表面的には「名刺を整理していなかった」個人の失敗に見えますが、三層構造で分解すると本質が見えてきます。
- 表面課題:名刺が見つからない・整理できていない
- 本質課題:業務上必然的に生まれる情報資産が、個人の物理的空間に閉じており、必要なときに取り出せない
- 構造的課題:名刺という情報の管理が個人に委ねられており、組織として蓄積・共有・活用する仕組みが存在しない

課題仮説としてまとめると、「営業活動を通じて蓄積される顧客接点情報は、個人が管理する前提の運用になっているため組織の資産として活用されておらず、この属人化が商談機会の損失と業務効率の低下を同時に引き起こしている」となります。
BtoBならではの「波及構造」
ここで重要なのが、BtoCとBtoBの決定的な違いです。GO/Uberの事例では、感情の谷は田中さん個人のストレスで完結していました。一方Sansanの事例では、佐藤さん個人の課題が次のように組織全体へ連鎖していきます。

佐藤さん(営業担当)が名刺を紛失・検索できない
↓
同僚が「あの会社知ってる?」と聞かれ、業務が中断される
↓
マネージャーがチームの商談進捗・フォロー状況を把握できない
↓
顧客(有望先)への連絡が遅れ、競合が先にアプローチする
↓
会社全体:展示会への投資が回収できず、商談数・受注数が本来の水準を下回る
BtoCでは個人の不便で終わる課題が、BtoBでは組織全体の機会損失にまで発展します。この「波及の構造」を理解することが、BtoB事業で課題仮説を立てる際の決定的な鍵になります。
解決策は「個人資産を組織資産に変える」こと
Sansanが実装した解決策を整理すると、次のようになります。
| 解決策 | 対応するステージ | 解決した本質 |
|---|---|---|
| 名刺スキャン→即時デジタル化 | 整理ステージ | 整理コストをゼロに近づけ、後回しを防ぐ |
| 全社員の名刺情報を一元共有 | 検索ステージ | 「誰かが持っているはず」問題を解消 |
| 商談履歴・フォロー状況の可視化 | 機会損失ステージ | マネージャーも含め進捗を把握し、抜け漏れを組織で防ぐ |
Sansanが解決したのは「名刺を整理する手間」だけではありません。個人に閉じていた情報資産を、組織の資産に変えるという構造的な問題にまで踏み込んだからこそ、大きな価値が生まれたのです。
まとめ
この記事では、カスタマージャーニーマップから本質的な課題仮説を立てる方法を、GO/UberとSansanの事例を通じて解説しました。要点を振り返ります。
- 課題は「事象」をそのまま言い換えるのではなく、時系列の感情の変化(感情の谷)として可視化して初めて、本質が見えてくる
- 感情の谷を見つけたら、表面課題→本質課題→構造的課題の3層で掘り下げることで、解決策の解像度が飛躍的に上がる
- BtoBのジャーニーでは、個人の課題が組織全体に波及する構造まで追いかける必要がある
優れた解決策は、表面的な不便の解消からは生まれません。顧客体験を時系列にマッピングし、最も感情が落ち込む最大のペインから構造的な欠陥を解き明かしたときに、初めて本質的な打ち手が見えてきます。
この記事を読み終えたあなたの次なる一歩は、自社の顧客体験を一つ選び、行動・タッチポイント・思考・感情の4軸でAs-Isジャーニーを書き出してみることです。そのうえで、感情が最も落ち込むステージに「なぜ?」を3回重ねてみてください。きっと、これまで見えていなかった本質的な課題仮説にたどり着けるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. カスタマージャーニーマップの作り方を、事例つきで教えてください。
A. ペルソナと特定の状況を定義したうえで、行動・タッチポイント・思考・感情の4軸で現状(As-Is)を時系列に書き出します。GO/Uberの事例のように、感情の谷を特定してから理想の体験(To-Be)を設計する流れが基本です。
Q. 顧客体験の課題はどうやって見つければいいですか?
A. 感情が最も落ち込む「感情の谷」のステージを特定し、そこで何が起きているかを表面課題・本質課題・構造的課題の3層に分解するのがおすすめです。事象をそのまま課題にしないことがポイントです。
Q. カスタマージャーニーマップはBtoBの事例にも使えますか?
A. 使えます。ただし、Sansanの事例のようにBtoBでは個人の課題が同僚・マネージャー・顧客に波及する構造があるため、主ペルソナだけでなく関係者への影響も合わせて分析することが重要です。
Q. 顧客の本質的な課題を特定する方法はありますか?
A. 「感情の谷はどこか」「なぜその瞬間に感情が落ちるのか」「その課題は誰に波及しているのか」という3つの問いを順に立てる方法が有効です。特に2つ目の問いで、事象から本質・構造まで掘り下げます。
Q. 「感情の谷」とはどういう意味ですか?
A. カスタマージャーニーマップ上で、顧客の感情が時系列で最も落ち込むポイントを指す言葉です。ここに最優先で解決すべき課題が集中している傾向があります。
Q. カスタマージャーニーマップとカスタマージャーニーの違いは何ですか?
A. カスタマージャーニーは顧客が体験するプロセスそのものを指し、カスタマージャーニーマップはそれを行動・タッチポイント・思考・感情などの軸で表形式に可視化したツールを指します。
Q. ジャーニーマップ作成にどのくらいの時間がかかりますか?
A. ペルソナ1つ・1シナリオであれば、慣れたチームで半日〜1日程度が目安です。ただし精度の高い課題仮説を立てるには、初回作成後にレビューと修正を重ねる時間も見込んでおくとよいでしょう。
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